このたび、論説「国家破産・金融破産および国際破産の歴史」を、高知大学経済学会『高知論叢』第117号(2019年10月)に発表しました。
紀国が研究をすすめてきました「国家破産・金融破産」研究の第3作となるものです。
ご関心のある方は、次をクリックして高知大学学術情報ディポジトリにアクセスしていただき、拙稿論文をダウンロードしていただくことができます。
国家破産・金融破産および国際破産の歴史
論文の構成は次のとおりです。
「国家破産・金融破産および国際破産の歴史」
はじめに
第1章 国家破産・金融破産および国際破産の定義と分類
第2章 八つの金融危機と国家破産・金融破産および国際破産
第3章 財政破産の歴史
第4章 貨幣破産の歴史
第5章 金融破産の歴史
第6章 国際破産の歴史
おわりに
本論文の意義について、「はじめに」において、次のように語っております。
「本論文では、国家破産・金融破産および国際破産についての、歴史実証研究の画期的な成果をとりあげる。
それは、カーメン・M・ラインハート&ケネス・S・ロゴフ著『今回はちがう:金融愚行の800年』‘Carmen M. Reinhart & Kenneth S. Rogoff, This Time is Different : Eight Centuries of Financial Folly ,Princeton University Press, 2009’ (邦訳:村井章子訳『国家は破綻する―金融危機の800年』日経BP社、2011年)である。以下、ラインハート&ロゴフと略す。
わたしが、ラインハート&ロゴフの研究成果を取りあげたのは、次の三つの理由からである。
一つは、原本の表題は「金融愚行の800年」であり、邦訳の表題は「金融危機の800年」であるが、そこに描かれているのは、まさに国家破産・金融破産そのものだからである。
著者たちの研究は、国家破産・金融破産のすべての発生様式とそれらの連動作用関係を網羅しており、国家破産・金融破産についての総合研究なのである。
二つめが、1300年から2008年までの800年もの長きにわたり、66ヵ国もの国を対象にして調査した実証研究であり、国家破産・金融破産の人類史を明らかにした研究成果だからである。
66カ国の内訳は、アフリカ13カ国、アジア12カ国、ヨーロッパ19カ国、中南米18カ国そして北米と太平州2カ国である。このすべてで世界のGDPの約90%をしめるという。彼らはこれらの多数の国の歴史データを徹底して収集したのである。
三つめは、著者たちが歴史実証研究から導きだした教訓というのが、意義深い言葉だったからである。
それは、原本の表題となっている「今回はちがう‘This time is different.’」シンドローム(病的傾向)である。人間が、「今回はちがう」と称しながら、結局は、「同じ過ち」をくり返してきたと、著者たちは教訓を引き出したのである。この教訓は学ぶべきものであるが、他方でこれは歴史における社会発展の矛盾を指摘しており、それも検討しなければならないのである。
著者たちは膨大なデータを収集し、そのデータセットをインターネット上でも公開している。かれらの著書は、このような豊富なデータを利用し、それらを分析した多数の図や表を用いて、新しい知見を明らかにしたものである。ただしその分析結果は多岐にのぼり、共著のためかいろんな説明が錯綜しており、しかも高度に専門的な内容もあるので、要点を理解しづらいところが多い。
本論文では、筆者の責任で、彼らの研究成果をよりわかりやすく、簡潔に要約して示すことにする。この貴重な研究成果をよりわかりやすく紹介し、多くの人に知ってもらい、国家破産・金融破産について関心を高めてもらいたいからである。なおもっと詳しく知りたい方には、直接に邦訳書や原本に当たっていただきたい。
以下、最初に、第1章「国家破産・金融破産および国際破産の定義と分類」において、国家破産・金融破産および国際破産についての、紀国の考える定義と分類を明らかにする。そしてそれをふまえて、ラインハート&ロゴフの研究成果を紹介していく。
まずは、第2章「八つの金融危機と国家破産・金融破産および国際破産」において、著者たちのいう八つの金融危機を紹介し、その内容を検討する。これ以降、第3章「財政破産の歴史」、第4章「貨幣破産の歴史」、第5章「金融破産の歴史」、第6章「国際破産の歴史」という順序で、かれらの研究成果を要約して紹介する。
最後に、第7章「歴史実証研究からの忠告」で、著者たちが歴史実証研究からたどり着いた教訓と忠告について考えてみる。」
以上です。
ご笑覧いただければ幸いです。
このたび、コラム「貨幣は正義(善)である」を、公開コラムサイト『国際経済評論IMPACT』(2019年7月29日)に発表しました。
ご関心のある方は、次をクリックして、『世界経済評論IMPACT』にアクセスしていただき、拙稿コラムをみていただくことができます。
貨幣は正義(善)である
貨幣を人類の持続的幸福のために使おうという、最近の歴史的な動向を紹介しております。
ご笑覧いただければ、幸いです。
このたび、論説「ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論」を、高知大学経済学会『高知論叢』第116号(2019年3月)に発表しました。
紀国が研究をすすめてきました「国家破産・金融破産」研究の第2作となるものです。
ご関心のある方は、次をクリックして高知大学学術情報ディポジトリにアクセスしていただき、拙稿論文をダウンロードしていただくことができます。
ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論
論文の構成は次のとおりです。
「ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論」
はじめに
第1章 ステュアート経済学の優位性
第1節 ステュアート経済学の優れた功績と悲運
第2節 ステュアート経済学の基礎をなす「貨幣流通の原理」と「調整均衡 の原理」
第3節 ステュアートによる先見的な貨幣数量説批判
第2章 ステュアート公信用論の優位性
第1節 ステュアート公信用論についての通説の誤った理解
第2節 通説が誤ってしまった謎の解明
第3節 ステュアートの考える信用と「信頼の原理」
第4節 ステュアートの考える公信用
第3章 ステュアートによる公信用研究の方法
第1節 ステュアートの公信用研究の方法と五つの想定
第2節 公信用の実証研究からステュアートが得た教訓
第3節 公信用の理論研究
第4節 公債に寛容なステュアート
おわりに
ジェイムズ・ステュアートを取りあげた意義について、本論文の「はじめに」では、次のように語っております。
「本論文では、アダム・スミスの『国富論』より9年早く、歴史上最初に、経済学を科学として体系的に確立したと評されるサー・ジェイムズ・ステュアート(Sir James Steuart、1713年―80年)の、国家破産・金融破産論を考察する(以下、ステュアートと略記する)。
ステュアートの国家破産・金融破産論を考察する意義として、次の三つをあげることができる。
第1に、科学として体系的に確立した経済学のなかに、国家破産・金融破産というテーマを重要な研究課題として位置づけたのが、ステュアートだったからである。
17世紀から18世紀のヨーロッパは、宗教紛争と覇権争いそして植民地争奪のための戦争に明け暮れた時代であった。戦争は、ヨーロッパの列強各国の財政を膨張させ、深刻な財政危機を引きおこした。財政赤字は莫大な公債の累積をもたらし、文明と国家の危機と表現される事態を発生させた。この状況にあって、当時の知識人、ディヴィッド・ヒューム、モンテスキュー、ジェイムズ・ステュアート、アダム・スミスなどは、それぞれの視点から、国家破産・金融破産というテーマと向き合わざるを得なかった。そのなかにあって、このテーマを経済学の信用論の展開のなかに位置づけて考察したのが、ステュアートだったのである。
第2に、ステュアートの国家破産・金融破産論の理解において、通説に重大な誤解があるからである。その通説とは、「自国民に対する公債なら、それがどれほど累積しようと、政府が破産することはない」とステュアートが考えていた、という説である。
この説は、経済学史から国家破産論そして財政学分野にまで広く行き渡っており、通説としての大きな影響力をもつまでになっている。しかし信じられないことだが、この説はステュアートの読み間違いであり、曲解といっていいほどの誤読なのである。
この誤解を解き、ステュアートの名誉回復を図らねばならない。そうでないと、ステュアートが学問的良心から真剣に考えた研究成果が見捨てられ、公信用論や国家破産論の研究の損失になってしまうのである。
そしてこの通説は、ステュアート経済学を重商主義・原始蓄積期の理論だとみなす通説とも無関係ではないので、それも批判的に検討しなければならない。
第3に、ステュアートの国家破産・金融破産論が、現代的意義をもっているからである。
現代そしてこれからの時代は、国家破産・金融破産そしてそれらと連動した経済破産のリスクがいっそう高まる状況にある。その原因は、経済自由主義の引き起こした三つの巨大な負の遺産、金融バブルの崩壊、経済格差と貧困の拡大、地球温暖化危機である。
ディヴィッド・ヒュームは文明を破壊するから、アダム・スミスは不生産的との理由から、公債全面反対論を唱えた。それは健全な思想であり順守されるべきものであるが、現代は、それだけでは対処できない事態を迎えている(以下、ヒューム、スミスと略記する)。
それに比べると、ステュアートの公信用論・国家破産論は、より現実的で実際的な接近方法を示しており、その研究成果から学ぶべきことは多いのである。
以下、次の順序で考察する。
第1章「ステュアート経済学の優位性」では、ステュアート経済学を重商主義・原始蓄積期の理論だとする通説を批判的に検討し、ステュアート経済学についてのわたしの理解を明らかにしたい。
第2章「ステュアート公信用論の優位性」と第3章「ステュアートによる公信用研究の方法」では、ステュアート公信用論についての通説の誤りを明らかにしたうえで、彼の公信用論の優れた内容と意義を明らかにするつもりである。」
以上です。
ご笑覧いただければ幸いです。
このたび、論説「ジョン・ローの国家破産・金融破産論」を、高知大学経済学会『高知論叢』第115号(2018年10月)に発表しました。
紀国が研究をすすめてきました「国家破産・金融破産」研究の第1作となるものです。
ご関心のある方は、次をクリックして高知大学学術情報ディポジトリにアクセスしていただき、拙稿論文をダウンロードしていただくことができます。
ジョン・ローの国家破産・金融破産論
論文の構成は次のとおりです。
「ジョン・ローの国家破産・金融破産論」
はじめに―国家破産・金融破産論の意義と定義
第1章 ジョン・ローの思想と行動
第2章 絶対王政下のフランスにおける財政危機と国家破産
第3章 ルイ14世末期の国家破産とジョン・ロー
第4章 ジョン・ロー・システムの展開と崩壊
第5章 ジョン・ロー・システムに対する評価
おわりに―ジョン・ロー・システムの歴史的実験が教えたこと
ジョン・ローを取りあげたのは、彼が歴史上初めて国家破産・金融破産を引きおこしたこともありますが、ヘリコプターマネー論者がこのローをヘリマネ論の歴史的実験として前向きに評価する動きがありましたので、その非科学性を批判するためです。
さらに、財政破産がいかに理不尽な金融破産をもたらすのかを明らかにして、警鐘を鳴らすことも意図しました。
ご笑覧いただければ幸いです。