紀国の考える社会的責任金融・国際的責任金融 

紀国の考える「社会的責任金融・国際的責任金融」とその働き

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目次
・紀国の考える「社会的責任金融・国際的責任金融」とはどういう働きでしょうか。
・社会的責任・国際的責任とはどういうことでしょうか。
・紀国の考える「社会的責任金融・国際的責任金融」が提起する政策課題・行動課題群にはどのようなものがあり、どのような状況にあるでしょうか。
・社会的責任金融・国際的責任金融の担い手はどういう人々でしょうか。


紀国の考える「社会的責任金融・国際的責任金融」とはどういう働きでしょうか

社会的責任金融・国際的責任金融とは、「富の共通等価物である貨幣(お金)の万能力とその使い方によって、富の持続的形成と更新を確実なものにして、人類の持続的幸福に寄与すること」です。

具体的には、社会的責任・国際的責任に配慮した貨幣(お金)の使い方をしたり、そのような使い方を創造・開発したり、そのような使い方をしている企業組織、金融組織、その他組織を評価・選択して支援するなどして、社会的責任・国際的責任に配慮した貨幣(お金)の流れを太く、強くしていくことです。

それは貨幣が、富の共通等価物としての貨幣の本来の姿を取り戻す自浄作用なのです。
哲学者のレヴィナスという人は、『貨幣の哲学』という自著で、富の共通等価物(共通単位)としての貨幣の役割を、「正義」と表現しました。わたしもそう思います。貨幣の本性からして、「貨幣は正義なり」なのです。
ところが他方でレヴィナス氏は、貨幣は、「金力(mammon:マンモン)」でもあるといいます。つまり、強欲と貪欲そして権力を追求させるものとしての貨幣です。彼は、貨幣は正義であるという側面と、金力(mammon)でもあるという側面をもっていて、貨幣には両義的性格があるというのです。

しかしわたしは、貨幣が両義的性格を本質的にもっているとは思えません。貨幣は、本質的にそして根源的に、正義であると考えるからです。
貨幣が乱用・悪用され、強欲と貪欲そして権力を追求させるものとしての貨幣になるのは、貨幣に原因があるのではありません。それを使う人間に非があるのです。

カール・マルクス氏は、その主著『資本論』において、人間が貨幣を自分で創り出しておきながら、それに支配される社会現象を、「貨幣物神性」という用語で表現しました。物神性とは、宗教用語で、信仰の対象として人間が創り出した偶像に、人間が支配されることをいいます。しかし支配されるのは、人間に原因があるからであって、そうだとすれば人間自身が是正していくことも可能です。

貨幣はあくまで人間が創り出した道具・手段であるので、それらに支配されるのではなく、人間が主役としてそれらを支配(制御)することも可能ですし、必要ですし、そうしなければならないのです。それが貨幣を創り出した人間の責務です。貨幣の創造者としての責任なのです。
社会的責任金融・国際的責任金融は貨幣の自浄作用だといったのは、こういうことなのです。

社会的責任金融・国際的責任金融は、むずかしいことではありません。金融が、情報とコミュニケーションを基本としたソフトウェアー公共財であることをふまえれば、人間の評価・選択・決定で可能になる金融の働きなのです。


社会的責任・国際的責任とはどういうことでしょうか

「社会的責任(social responsibility)」とは、企業の果たすべき社会的責務という意味を中心として、時代や社会の折々の要請によって、その多面的な内容が具体化されつつ発展してきた用語です。そして現在では、企業にとどまらず組織すべてに求められる社会的責務、という意味に拡大してきました。

さらに紀国は、「社会的責任金融」という考えから、組織にとどまらず、個人もふくめて人間すべてに求められる恒久的・普遍的責務、という意味に広げるべきだと考えています。

この流れを振り返りつつ、その発展過程をみてみましょう。

(「社会的責任」概念の発生)
その歴史的な背景は、1920年代頃の英米で、キリスト教会が教会基金運用の際に、アルコール・ギャンブル業者、児童や奴隷を使っている業者、高利貸しなどを排除する倫理的運用を始めたことに由来するといわれています。投資を通じて、企業に倫理的行動を求めたのです。最初に金融が関係していたことは、とても興味深いことです。社会的責任投資(SRI:socially responsible investment)といわれるものの始まりです。

日本では江戸時代に近江商人が、「買い手よし、売り手よし、世間によし」という「三方よし)の商人道を唱えたことも、社会的責任の発祥であるという研究もあります。つまり自分が儲けるだけでなく、消費者や地域社会の利益にもなるように商売をしようという心掛けです。

1970年代にはベトナム反戦や南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)反対の運動が盛んになり、兵器産業や南アフリカと取引をしている企業に投資しない行動が起こりました。

1990年以降に欧米に設立された社会的責任投資のための調査・評価機関の多くが、タバコ、アルコール、ギャンブル、原子力、兵器に関係している企業を投資先から排除するという選定を実施しました。

1992年の地球環境サミット(環境と開発に関する国連会議)では、原発事故、環境汚染と地球温暖化リスクに関心が集まり、「持続可能な開発(sustainable development)」というキーワードが国際文書「環境と開発に関するリオ宣言」に記載され、企業に環境対策を求める運動が強まりました。大気・海洋・土壌汚染・森林伐採などの環境を破壊し、温室効果ガスを大量に出す企業に対して、地球環境を守る行動を社会的責任として求めたのです。

(企業の社会的責任の多面性)
このように、「社会的責任」という用語は、元々は、「企業の果たすべき社会的責任(CSR:corporate social responsiblity)」のことを意味し、その責任内容にさまざまな政策課題や行動課題がふくめられるようになって、発展してきました。
企業活動が地球規模化(グローバル化)した今では、地球環境や国境をこえた国際的責任というべき課題もふくめて使われるようになっています。

企業の社会的責任の内容が多面化するのは、企業が経営者・株主の私的財ではなく、さまざまな人と利益を多面的に共有する社会の公共財であり、その活動が社会の広い範囲における関係者たちの利害に影響するからです。

株式会社組織では、多数の株主が資本を投資し配当を受け取り、多数の労働者・従業員は協業や分業などで協力して労働を行い賃金を受け取り、企業の多数にわたる取引先はさまざまな原材料などを供給したり運輸・通信サービスなどを提供して代金を受け取り、資金を融資した金融機関は返済と利子を受け取り、多くの消費者は貨幣を企業に支払い商品・サービスを購入します。
企業は生産を行うために、自然界から大気や水、原料などのさまざまな自然資源を取り入れ、さまざまな経路で排出します。
企業が立地された周辺の地域住民は、土地や大気、空間などの環境・自然資源さらに道路・上下水道・電気などの設備を提供し、雇用・地域産物の販売収益・税収などの利益を受け取ります。利益が生じる例で説明しましたが、こうなるとは限りません。むしろ大気汚染や有害廃棄物の排出などで不利益や損失を与える場合も多いです。企業規模が広がれば広がるほど、企業活動に利害関係を有する地域住民の範囲は広がり、地球規模になることもあります。

このことから、企業活動が影響を与える社会のさまざまな人々を「ステークホルダー(企業と利害のかかわりがある関係者たち)」と定義するようになり、その人々の利益を尊重し、その人々との対話と信頼関係をつくり出すことが、企業の社会的責任の行動原則になっていったのです。

このステークホルダーには、消費者・顧客、労働者・従業員、取引先・調達先、株主・投資家・債権者、政府・行政機関、NPO(非営利の民間活動団体)、NGO(非政府の国際活動団体)、地域住民、国民社会住民、国際社会住民など、幅広い利害関係者がふくまれるようになっており、現在ではマルチ・ステークホルダーという用語も使われています。

こうして、国際連合や国際機関、欧州連合(EU)、NPO(非営利の民間活動団体)、NGO(非政府の国際活動団体)、各国政府などで、企業の社会的責任(CSR)についての行為指針(ガイダンス)、行動規範などが、たくさん策定されるようになりました。欧州連合(EU)では、マーストリヒト条約に「持続可能な発展」がうたわれ、2001年にはイギリスでCSR担当大臣が置かれ、フランスではすべての上場企業に対してCSR情報の開示が義務づけられました。

(社会的責任の国際規格)
2001年には、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)において、「企業の社会的責任についての国際規格」を策定しようという動きが始まりました。国際標準化機構(ISO)とは、産業の規格の国際的統一や協調を目的とする国際機関で、150をこえる国が参加しています。

2004年には、対象を企業に限らず、すべての組織(Organaizations)が順守すべき社会的責任基準とすること(CSRではなくSR:Social Responsiblity規格)、認証用規格(合格認定する基準)ではなくガイダンスにすること、多方面にわたる利害関係者(マルチ・ステークホルダー)が参加することが合意され、国際規格策定作業が始まりました。加盟各国から産業界、労働、消費者、政府、NGO(非政府国際組織)、研究機関の六つの代表者が集まり、他の国際機関とも連携しつつ作業が進められました。こうして2010年に、「組織の社会的責任についての国際標準規格(ISO26000)」が発効しました。
それは7つの中核的政策課題と7つの行動原則から成っています。その骨子を紀国がまとめたものが、次のものです。

「国際標準規格(ISO26000)」は、組織(Organizations)の社会的責任について、次のように「七つの中核的政策課題」と「七つの行動原則」を、包括的かつ詳細に定めております。
適用対象が組織一般に広げられたので、政府などの公的機関もふくめ、組織全体の社会的責任について国際的に合意された重要な行為規範です。しかしこれらは適格認定する基準ではなく、ガイダンス(指導基準)であるので、強制力をもちません。これらの行為規範がより有効性・実効性をもつためにはどうすればよいのかが、これからの課題となります。その内容を簡単に紹介しておきましょう。

「組織の社会的責任についての国際標準規格(ISO26000)」
(七つの中核的政策課題)
①組織管理
社会的責任を組織管理に組み入れ。組織の意思決定と実施は七つの行動原則に従う。
②人権
人権侵害の事前予防。危機的状況でも人権尊重。人権侵害への加担を避ける。苦情解決。社会的弱者の人権擁護。市民的・政治的権利の尊重。経済的・社会的・文化的権利の尊重。労働基本権の尊重。
③労働慣行
労働法および関係法規の順守、雇用の安定への配慮、労働者の権利の保護、非正規労働者の保護、現地の雇用の配慮。労働基準・労働協約の尊重、公正な労働条件の確保、適正な賃金の確保、適切な労働時間の実現。労使・政府の社会対話、団結権の尊重、労働における安全衛生の推進。能力開発とキャリアアップの機会提供、健康・福祉増進。
④環境
環境汚染の予防。持続可能な資源の利用。気候変動の緩和と適応。環境保護、生物多様性・自然生息地の回復。
⑤公正な事業慣行
汚職防止。責任ある政治関与。公正な競争。供給取引のつながり(バリューチェー ン)における社会的責任の推進。財産権の尊重。
⑥消費者に対する課題
公正なマーケティング・事実に即した偏りのない情報、公正な契約慣行。消費者の安全と衛生の保護。持続可能な消費。消費者サービスと支援、苦情と紛争の解決。消費者データ保護とプライバシー尊重、必要不可欠なサービスへのアクセス。消費者教育と意識向上。
⑦コミュニティへの参画とコミュニティの発展
コミュニティへの参画。コミュニティの教育と文化の発展。雇用創出と技能開発。技術の開発および技術へのアクセス。富および所得の創出。健康への配慮。社会的投資。

(七つの行動原則)
①説明責任:組織は、自らが社会・経済・環境に与える影響について説明責任を負うべきである。
②透明性:組織は、社会・環境に影響を与える自らの決定および活動に関する情報を公開し、透明であるべきである。
③倫理的行動:組織は、倫理的に行動すべきである。
④組織と利害のかかわりがある関係者たち(ステークホルダー)の利益の尊重:組織は、組織と利害のかかわりがある関係者たち(ステークホルダー)の利益を尊重し、よく考慮し、対応すべきである。
⑤法の支配の尊重:組織は、法の支配の尊重が義務であると認めるべきである。
⑥国際行動規範の尊重:組織は、法の支配原則に従うと同時に、国際行動規範も尊重すべきである。
⑦人権の尊重:組織は、人権を尊重し、その重要性と普遍性の双方を認識すべきである。

ISO26000における社会的責任の定義は、「組織が、透明かつ倫理的な行動を通じて、健康および社会の繁栄を含む持続可能な発展に貢献すること」です。
「持続可能な発展」とは、「地球の生態的制限の範囲内で生活し、未来の世代の人々が自らのニーズを満たす能力を危険にさらすことなく、社会のニーズを満たすことである。持続可能な発展には経済、社会および環境という三つの側面がある」といいます。

紀国も、社会的責任の担い手は、企業にかぎらず、すべての組織がふくまれると思いますが、わたしの場合は、「社会的責任金融」の観点からもっと範囲が広がって、貨幣の利用にかかわる個人単位の市民もふくみます。

また、「持続可能な発展」についてISO26000は、経済、社会、環境という三つの側面があるといいますが、わたしは、どうしても経済成長的なイメージが残ってしまう「持続可能な発展」という用語ではなく、「人類の持続的幸福」という用語を使い、「社会的責任」を次のように定義したいと思います。

(社会的責任の定義:紀国)
「社会的責任とは、人類の持続的幸福の実現を目的に、それを可能とするために重要にして必要だと、社会と時代が要請する政策課題・行動課題群のことです。したがってその内容や重点は時代により変化していきますし、新しい課題が付け加わることもあります。
人類の持続的幸福というのは、現世代が、未来世代の幸福の機会と権利を奪うことなく、地球資源の持続循環の範囲内で、自らの幸福の権利を追求することです。すべての個人およびすべての組織は、このような人類としての恒久的・普遍的責務を負っているのです。」

これまで、社会的責任を果たすために重要だとして、次のような政策課題・行動課題群などが盛り込まれてきました。
「平和」、「民主主義」、「地球環境保全」、「脱原発と再生可能エネルギーの振興」、「人権尊重・労働環境改善」、「消費者・顧客利益尊重」、「労働者・従業員利益尊重」、「貧困・格差是正」、「リスク管理」、「コンプライアンス(倫理・法令・国際規範順守)」、「透明性・情報公開促進」、「コーポレート・ガバナンス(企業の公正・誠実・透明性内部管理)」、「地域貢献」、「社会貢献」、「国際社会貢献」、などです。

これらの課題群のなかで、核兵器廃絶、非戦・紛争防止、軍縮、兵器の生産・輸出禁止などの平和の諸課題は、人類の生存と生命にかかわる重要なことなのですが、国際機関が作成した社会的責任基準では、取り残されているように思います。当サイトの「社会的責任基準・国際的責任基準」ページをご参照ください。

さらに貨幣・金融システムの持続性と財政システムの持続性などの、社会全体の課題も盛り込まれるべきものと考えます。これらの課題が希薄になったのは、「社会的責任」がもっぱら企業の視点から検討されてきたからでしょうか。
日本においては、「震災復興と災害に強い国土づくり」と「日本経済と財政の持続的再生」が、これらに付け加わります。

(国連:持続可能な開発目標:2016年)
(Sustainable Development Goals:SDGs)
2015年に、社会的責任・国際的責任にかかわる具体的な総合的目標値が国際社会で採択されました。それが国連の「持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals:SDGs」です。それを紹介しましょう。

2015年9月25日から27日にかけて、ニューヨーク国連本部に161の国連加盟国の首脳が出席し、193の国連加盟国が合意したアジェンダ案「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(Transformation Our world:2030 Agenda for Sustainable Development )」を採択しました。そして2016年1月1日に発効しました。

この2030アジェンダは、2030年を目標年とし、地球環境を保全しつつ、あらゆる地域の貧困をなくし、誰もが開発の恩恵を受けられるようにすることを、すべての国と組織そしてすべての人々に求めた地球的規模での行動計画です。
それは、宣言、17の持続可能な開発目標と169項目の具体的数値目標、実施手段と新たな地球的規模での協力関係および再検証と追跡調査の方法から構成されています。

条約ではないので法的拘束力はありませんが、全会一致で採択されており、各国が目標の達成に努めるという約束を表明しております。すべての国がこの開発目標の達成に向けて、各国独自の持続可能な開発に関する政策、計画、プログラムを作成すること、その進捗状況を追跡し検証すること、およびそれに必要なデータを整備することが求められています。2030アジェンダの成否は、各国政府の意欲と指導力および各国の地域や組織そして市民がどれだけそれを後押しするかにかかっているのです。

2030アジェンダは、以下に紹介する17の目標が示しているように、実に包括的で相互に関連する多面的な内容で構成されています。これには、1992年の国連環境開発会議が採択した「地球環境保全に関する行動計画:アジェンダ21」、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」、2010年の「ミレニアム開発目標(MDGs)」、2012年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」などの成果およびそれらの会議に集った各種のNGO(非政府国際組織)・NPO(非営利民間組織)や世界の市民の英知が結集されているのです。

国連:持続可能な開発目標(2016年)
(Sustainable Development Goals:SDGs)
目標1. あらゆる場所のあらゆる形での貧困を終わらせる。
目標2. 飢餓を終わらせ、食糧の安定確保と栄養改善を実現し、持続可能な農業を推進する。
目標3. あらゆる年齢のすべての人々に健康な生活を保証し、福利を促進する。
目標4. すべての人々に、誰もが恩恵を受ける公平な質の高い教育を保証し、生涯学習の機会を促進する。
目標5. 男女の平等を実現し、すべての女性および少女が発達能力(エンパワーメント)を身に着けられるようにする。
目標6. すべての人々が水と衛生設備を利用でき、それを持続的に管理できるようにする。
目標7. すべての人々が、安価で信頼できる持続可能な最新エネルギーを利用できるようにする。
目標8. 誰もが恩恵を受ける持続可能な経済成長を進め、すべての人々に完全雇用と十分な収入が得られる雇用を保証し、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する。
目標9. 強固な生活・生産基盤を構築し、誰もが恩恵を受ける持続可能な産業化を促進し、技術革新の拡大を図る。
目標10. それぞれの国内における不平等および国家間の不平等を是正する。
目標11. 都市および人間居住地を、誰もが恩恵を受ける安全かつ強固で持続可能な様式に転換する。
目標12. 持続可能な消費と生産様式を確固としたものにする。
目標13. 気候変動とその影響に立ち向かうため緊急行動を起こす。
*国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動に対する国際交渉を行うに あたっての、国際的なそして政府間対話の最も重要な公開討論の場であると 認識している。
目標14. 持続可能な開発のために海洋と海および海洋資源を保全し、持続的に利用できるようにする。
目標15. 地球生態系を保護し回復させ、その持続可能な利用を推進し、森林を持続可能に管理し、砂漠化を防止し、土地の劣化を止めて回復させ、生物多 様性が失われるのを阻止する。
目標16. 持続可能な開発のために平和で誰もが恩恵を受ける社会の実現を促進し、すべての人々に司法救済の道を保証し、あらゆる基準からみて、実効性 があり責任をもち誰もが恩恵を受ける諸制度の構築を図る。
目標17. 持続可能な開発のための実施手段を強力なものにし、地球的規模での協力関係(グローバル・パートナーシップ)を活性化する。
(紀国正典仮訳:訳注は社会的責任基準・国際的責任基準ページに掲載)


紀国の考える「社会的責任金融・国際的責任金融」が提起する政策課題・行動課題群にはどのようなものがあり、どのような状況にあるでしょうか

(平和・民主主義)
1970年代にはベトナム反戦やアパルトヘイト(人種差別)反対の運動が盛んになり、兵器産業や南アフリカと取引をしている企業に投資しない行動を起こしました。1990年以降に欧米に設立された社会的責任投資のための調査・評価機関の多くが、タバコ、アルコール、ギャンブル、原子力、兵器に関係している企業を投資先から排除するという選定を実施しました。

2010年の注目すべき動きは、不発弾による民間人被害が大きいクラスター爆弾(大量の子爆弾が広範囲にまき散らされる非人道的爆弾)を全面禁止する条約(オスロ条約)が、中小国の批准に支えられて2010年8月に発効したことです。これに伴い、ベルギー、ノルウエー、ニュージーランドは、爆弾の製造企業への投融資を禁ずる立法措置をとりました。ロッキードを含む米国、韓国、シンガポールのクラスター爆弾製造企業7社に対する投融資は、世界の146の金融機関で総額430億ドル(約4兆円)にもなります。最大の資金源は、バンク・オブ・アメリカやJPモルガン、シティグループなどの米国の大手金融機関ですが、日本では三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャル・グループ、みずほ銀行が融資リストに含まれ「不名誉の殿堂入り」をしました。スイスの大手金融機関UBSは、対人地雷もふくめクラスター爆弾関連企業への投融資をやめると発表しました。
日本の金融グループは2017年になってようやく、これらの投融資の見直しを始めました。三井住友フィナンシャル・グループは9月に、三菱UFJフィナンシャル・グループは12月に、今後融資しない方針であることを表明しました。第一生命ホールディングスとオリックスはすでに投融資していないということです(2017年12月2日朝日新聞)。他の金融機関もこのような非人道的なお金の使い方を止め、もっと社会的に有益なことに資金を使うべきだと考えます。

2010年にはさらに良いこともありました。
アメリカで2010年7月に成立した「金融規制改革法(ドット・フランク法)」において、アメリカに上場している企業には、紛争地域から調達した鉱物(スズ・タンタル・タングステン・金)の使用状況について開示・報告する義務が課せられたことです。紛争地域とはコンゴ、アンゴラ、タンザニア、ウガンダなどの10ヶ国です。これらの国では鉱物利権をめぐって現地の武装勢力が争いを繰り返し、数百万という罪のない民間人が犠牲になっていたのです。これらの紛争鉱物は、コンピュータの部品製造に不可欠なもので、先進国の電子産業は紛争国の多くの人々の犠牲に上に成り立っていたのです。この規制により、紛争国の鉱物の使用が削減され、武装勢力への資金の流れが少しでも抑制できれば望ましいことです。

しかし望ましくないことも明らかになりました。
2014年10月に、国際平和団体PAX(オランダ・ユトレヒト)は、核兵器製造に関係する企業と金融取引をしていた銀行、生命保険会社、年金基金など411社のリストを公開しました。
アフラック(米)、アリアンツ(独)、バンクオブアメリカ(米)、バークレーズ(英)、シティーグループ(米)、クレジットスイス(スイス)、ドイチェバンク(独)、ゴールドマン・サックス(米)、HSBC(英)、ロイズ銀行グループ(英)などの有名な巨大金融機関が、「不名誉の殿堂入り」をしました。日本からは、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、オリックス、三井住友トラスト・ホールディングス、千葉銀行が挙げられました。411社から核兵器製造会社に流れた資金総額は、4千2億ドル(約40兆円)にもなると推計しています。これらの金融機関に資金を預けた金融消費者がこの事実を知れば、もっと有益な方法にお金を使ってもらいたいと思うことでしょう。
戦争・紛争防止、軍縮、兵器の生産・輸出禁止、核兵器廃絶などの平和の諸課題は、人類の持続的幸福にとっての企業の社会的責任の重要な内容なのです。

広島・長崎への原爆投下から72年を迎えますが、2017年7月には、被爆者の訴えが市民やNGOを動かし、国連で核兵器禁止条約が採択されるという偉業が成し遂げられました。核兵器禁止条約は、「核兵器のない世界」を目指し、核兵器の使用や開発、実験、生産、製造、保有および使用威嚇を禁止するというもので、国連加盟国(193カ国)の7割にあたる124カ国が投票に参加し、122カ国の賛成で採択されました。条約は50カ国の署名・批准を達成してから90日後に発効しますが、9月の署名式典のおり署名が50カ国に達したことを国連が発表し、早期発効に向け前進しました。しかしきわめて残念なことは、唯一の被ばく国である日本の安部政権が、米国のトランプ大統領に配慮して、この条約交渉に参加しなかったことです。
今後は、核兵器禁止条約の批准を目指し、日本国政府および核保有国に対するとり組みを強め、国際世論の圧力を高めて核軍縮を実現させなければなりません。

ノーベル委員会は、10月6日、2017年のノーベル平和賞を核兵器の非合法化と廃絶をめざす国際NGOで、核兵器禁止条約成立に貢献した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に与えると発表しました。12月10日の授賞式には、ICANのフィン事務局長と日本の被ばく者も参加し記念スピーチをしました。フィン事務局長は、この賞金約1億2千万と寄付を使い、「一千日基金(仮称)」を設立すること、この資金を活用して2年以内に核禁止条約の批准を達成し条約発効を目指すこと、国際世論を喚起するとともに核兵器製造に関わる企業や金融機関・投資ファンドの調査・特定・公表の活動を強めることを明らかにしました。


(地球環境保全)
1992年の地球環境サミット(環境と開発に関する国連会議)では、原発事故、環境汚染と地球温暖化リスクに関心が集まり、「持続可能な発展(sustainable development)」というキーワードが、国際文書「環境と開発に関するリオ宣言」に記載され、企業に環境対策を求める運動が強まりました。大気・海洋・土壌汚染・森林伐採などの環境を破壊し、温室効果ガスを大量に出す企業に対して、地球環境を守る行動を社会的責任として求めたのです。

地球温暖化が人類の生存を危うくすることについては、世界の科学者の研究成果を集約する国連の科学研究機関である「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、2014年10月にまとめた第5次評価報告書(統合報告書)で、次のように恐ろしい科学的予測をしました。
地球温暖化は95%から100%の確率で温室効果ガスの排出という人為的影響によること、温室効果ガスの大気中濃度は過去80万年で前例のない水準にあること、このままでは21世紀末には平均気温が0.3度から4.8度上昇する恐れが強いこと、気候が極端化し、乾燥地域はさらに乾燥し、雨の多い中緯度地域にはさらに強い雨が降ること、海面は26㎝から82㎝上昇する恐れが強いこと、これらの要因によって次の八つのリスクが増大することです。
①海面上昇・高潮による沿岸低地・島国の死亡・健康障害・生計破たん、
②洪水による大都市住民の健康障害・生計破たん、
③異常気象による電気・水・保健インフラ停止、
④熱波による死亡・病気、
⑤高温・干ばつ・洪水・異常気象による食糧不足、
⑥乾燥地域の水不足による農村部の収入・生計損失、
⑦海洋・沿岸生態系破壊による沿岸部の生計破たん、
⑧陸や内水の生態系破壊による生計破たん、のリスクです。
加えて、食糧や水をめぐっての内戦や暴力的紛争という安全保障リスク懸念もあるといいます。

これらのリスクはすでに現実のものとなっています。ここ数年の記録的豪雨、洪水、干ばつ、巨大な台風・サイクロン・ハリケーンの発生、高潮などの異常気象が頻繁に起こるようになっていますし、低地の多いバングラディシュやポリネシアの島国では、海面上昇や海岸浸食で土地を失い、生活できなくなった気候難民が激増しています。2013年にフイリッピンを襲ったスーパー台風「ハイエン」は7300人もの犠牲者と甚大な被害を出しました。日本でも2014年には記録的猛暑や集中豪雨による洪水と山崩れの被害が深刻になりました。

このまま温暖化が進み、凍土や海底に凍結されていて、二酸化炭素より20倍も温室効果の強いメタンガスが噴出することにでもなれば、回復は不可能で、地球は焦熱地獄になり、生物のほとんどは死滅します。実際に地球46億年の歴史において、2億5千万年前のペルム期末期に、シベリア付近の大規模火山噴火によって吐き出された二酸化炭素が地球を温暖化させ、それが凍結されていたメタンガスを噴出させてしまって、地球は焦熱化し、生物の大量絶滅を引き起こしたのです。21世紀末までといえば遠いようですが、現在の若者たちの孫・ひ孫の時代にあたるのです。
IPCCの第5次評価報告書は、今世紀末に気温上昇を2度未満に抑える国際合意を達成するためには、2050年の温室効果ガスの排出を、2010年比で40%から70%削減する必要性と、低炭素エネルギーの電力供給に占める比率を、現在の30%から2050年に80%以上に引き上げる必要があることを提言しています。

フランス・パリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)は、2015年12月14日に「パリ協定」を採択して閉幕しました。この会議に呼応して、世界中で多くの運動やデモなどがありました。100ヶ国をこえる国が参加した「高い野心を持つ国々の連盟」、地球温暖化で被害を受ける島国など43ヶ国が参加した「気候脆弱フォーラム」、赤道付近の120ヶ国以上が参加した「国際太陽エネルギー連盟」、38ヶ国が参加した「国際地熱同盟」などの、国際的な取り組みも活発になりました。

パリ協定では次の三つの大きな成果がありました。
①今世紀末に世界の平均気温2度未満を目標として(1.5度を努力目標)、2050年に温室効果ガス実質ゼロの積極的な長期目標で合意したこと。
②世界196ヶ国・地域のほとんどすべての国の参加で合意したこと。とりわけアメリカ(先進国)、中国・インド(途上国)の温室効果ガス大量排出国が参加して合意できたこと。
③長期目標をめざして5年ごとに温室効果ガス削減目標を見直し、後退させないこと。

しかし、残された次の三つの課題も重大で、今後の活動に期待したいです。
①今回の会議で各国が約束した自主削減目標を達成できても、今世紀末の世界の平均気温は2.7度から3.5度上昇すること。
②2度未満などの長期目標を実現するための厳しい実効削減目標は、5年後の2020年に先送りされたこと。
③各国の削減目標を義務化しなかったこと。未達成に罰則規定を設けなかったこと。

パリ協定は、2016年9月に中国と米国が国内批准し、10月にはインドとEUが国内批准して発効条件が早々と達成でき、2016年11月4日に早期発効しました。しかし残念なことに、2017年6月1日、米トランプ政権がパリ協定離脱を発表しました。ただしEUと中国は協定順守を表明しておりますし、アメリカ国内では自治体・企業・市民運動レベルで、パリ協定実施を続ける運動が活発になっています。

2017年11月にドイツ・ボンで開催された第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)は、米トランプ政権のパリ協定離脱の影響もあって意見対立が鮮明になり、2020年からの「パリ協定」実施の運用ルールづくりは、2018年12月のCOP24に持ち越されました。また米国離脱の穴埋めが必要になった資金支援でも先進国と途上国の対立が鮮明になり、これも持ち越されました。

ただし、前進面もありました。
一つは、パリ協定に基づき2020年から実施予定の温暖化ガス削減交渉を2年間前倒しし、さらに上積みすることが合意されたことです。これに向けて「タラノア対話」という新たな取り組みを18年から始めることも決まりました。タラノアとは今回の議長国フィジーの言葉で「開かれた話し合い」を意味します。
二つめは、英国とカナダの両政府が脱・石炭火力連盟を発足させたことが、COP23の会場で発表されたことです。これは二酸化炭素(CO2)の排出量が多い従来型の石炭火力発電の全廃を目指す国家連合です。フランス、イタリア、メキシコなどが参加を決め、米国ではワシントン州とオレゴン州が参加を表明しております。日本は石炭火力発電の建設ばかりか輸出もしているとして、会場で激しい抗議行動がありました。
三つめに、米国内の15州、455都市、1700以上の企業などのリーダーが2500人が参加する「We Are Still In(わたしたちはまだパリ協定にいる)」が、COP23の会場で、プロジェクト「アメリカの約束」の報告書を発表したことです。それによれば、パリ協定に賛同する米国内の州や都市のGDPは計約10兆ドルに上り、国で比較すると米国全体、中国に次ぐ規模であり、温室効果ガスの排出量は米国全体の35%を占めるとのことです。

パリ協定採択から2年となる2017年12月12日に、マクロン仏大統領が呼びかけた気候変動サミットがパリで開催されました。
注目すべきは、このサミットに向け機関投資家や金融機関が脱温暖化戦略を打ち出したことです。
仏保険大手アクサは温室効果ガス排出の多い石炭関連企業から24億ユーロの投資を撤退し、石炭火力の新規建設などへの保険も取りやめると発表しました。アクサが参考にするのはドイツのNGO「ウルゲバルト」が作成した「脱石炭リスト」で、これには石炭による発電量や収益が大きかったり、新たに炭鉱や石炭火力発電所の開発を計画したりする企業775社が掲載されており、日本の電力各社や大手商社、製鉄企業も名を連ねております。
米資産運用会社ブラックロックは企業120社に温暖化リスク情報の開示を要求しておりますし、カリフォルニア州職員退職年金基金など225の機関投資家(運用資産の総計は26.3兆ドル:約3千兆円)は、排出の多い企業100社に取引先をふくめた温暖化対策と情報開示を求めました。
また世界銀行は、2019年以降、石油・ガスの探査・採掘へ原則融資しない方針を示しました(2017年12月13日朝日新聞)。
温暖化に関係している企業から資金や投資を引き揚げる動き(いわゆるダイベスト:divest)は、急速に大きなうねりになってきています。再生可能エネルギーの開発・普及に消極的な安倍政権のもとで、いずれ日本経済は立ちゆかなくなることでしょう。


(脱原発と再生可能エネルギーの振興)
原子力発電は、米国などの核政策をすすめる補完手段として世界で推進されてきましたが、2011年3月の東京電力福島第1原子力発電所事故では、三つの原子炉が炉心溶融事故(メルトダウン)と水素爆発を起こし、一つの原子炉が格納容器損傷(メルトスルー)する史上最悪レベル(レベル7)の過酷事故が発生しました。
これによって大量の放射性物質が放出され、環境汚染と被爆によって、16万人もの人々が突如として、生活・生産・居住地域から追い出され、避難生活と家族離散を余儀なくされ、40キロメートル範囲(神奈川県ほど)の地域に人が住めなくなる恐れ(地域消滅)が生じました。それから4年が経過しても、まだ広い範囲に放射能汚染が残り、放射能被ばくによるガンや白血病などの病気が将来に発生したり、次の世代にも先天性の病気などの悪影響を及ぼすことが懸念されています。
しかも福島原発事故の処理(事故原発の解体、使用済み核燃料の取り出し、溶融塊の取り出し・処分)は40年以上もかかり、費用も巨額(9兆円)にもなると予想されており、これは長期にわたり納税者と電力消費者の負担となります。

原子力発電は、人体や環境に有害な放射性核物質を燃料にし、外部電力に依存しないと制御不能になるという構造的欠陥を有しています。しかも日本列島は、トラフ型巨大地震や活断層が多い地震大国であり、活火山も多いので、原発立地にはもっとも不適なところなのです。原子力発電は初期投資は少なくてすみますが、廃炉費用や事故対策費用も含めて長期的に試算すれば、高価になるエネルギー源なのです。また燃料のウラン鉱石は石油より早く枯渇するので、原子力発電は近い将来に消え去る再生不能エネルギーです。

しかも原発稼働後に生じる「使用済み核燃料(いわゆる核のゴミ)」は、放射能が使用前の1億倍にもなり、人間が近づくと数秒で死亡するほど毒性が強く、しかもそれが安全になるまでに10万年もかかるのです。原発を稼働すればするほど増大するこの危険な核のゴミですが、世界のほとんどの国でも最終処分場が決まらず、日本では青森の六カ所村と原発敷地内のプールに積まれています(一部は海外の再処理施設に出されています)。すでに全国の原発全体で貯蔵できる量の7割超が埋まっているのです。関西電力は、その保有する原発11基のうち、廃炉を決めた美浜1、2号機を除く9基が稼働した場合、7~8年後にプールが満杯になるということを明らかにしております。
原子力発電は、最終処分が不可能である猛毒の廃棄物を吐き続ける、人類史上最も危険な環境汚染産業なのです。

さらに使用済み核燃料から取り出されるプルトニウムは、核兵器の原料になるので、核兵器の世界的拡散につながります。ちなみに長崎にアメリカが落とした原子爆弾は、このプルトニウム型です。日本のプルトニウム保有量は、2016年10月27日時点で、48万トンもあり、これは核兵器6000発分に当たります。今回の原発事故で、送電線を爆破するなどの外部電力の切断だけで簡単に原発テロを起こせることが明らかになりました。日本が憲法の禁止した集団的自衛権を認め、アメリカとの軍事同盟に参加すれば、日本もアメリカと同様にテロリストのターゲットとなり、原発テロの懸念もあります。

安部政権は、原発を再稼働させ日本のエネルギーの基礎部分にする方針ですが、原発固有のリスクと非合理性という大きな壁が立ちふさがっています。
一つは、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が2016年末に決まったことです。プルトニウムを燃やし再利用する核燃料サイクルが実験段階で崩壊しました。
二つめには、原発の安全対策費が巨額になり、原発を動かしても採算が合わなくなってきたことです。このため関西電力は福井県にある大飯原発1、2号基の廃炉を2017年12月22日に決めました。
三つめは、地震・津波・火山大国の日本列島においては原発リスクがきわめて大きいことが明らかにされてきたことです。原発再稼働に不安をいだく住民がその差し止めを求めた各地の訴訟において、原発の安全性が争点になりました。大飯原発3、4号機の差し止めを命じた2014年5月の福井地裁の判決、高浜原発3、4号機の差し止めを命じた2015年4月の福井地裁の判決、高浜原発3、4号機の差し止めを命じた2016年3月の大津地裁の判決では、原発の安全技術が脆弱であるとか、新規制基準が不合理であるとか、電力会社の安全対策の説明が不十分であるなどの理由で原発リスクが示されました。これらの判決は係争中であったり異議審や高裁で覆ったりしておりますが、2017年12月の広島高裁の判決は、広島地裁の決定を覆し、高裁として初めて伊方原発3号機の差し止めを命じました。阿蘇山大噴火の影響があるとの理由ですが、それなら火山大国日本において、立地上原発が安全といえる所はないことになります。

2014年の「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」による第5次評価報告書(第3作業部会報告書)は、「原子力発電は各種リスクと障壁(操作リスク、ウラン採掘規制、未解決の放射性廃棄物管理問題、核兵器拡散懸念、世論の逆風)がある」と指摘しています。
現世代の命と生活を危険にさらすばかりか、将来世代にも大きなリスクを伴う負の遺産を残していいのでしょうか。

温暖化ガスを出さず、枯渇しない再生可能エネルギーの振興は、人類の持続的幸福に不可欠です。再生可能エネルギーとは、太陽光、太陽熱、風力、水力、地熱、波力などの、使っても使っても減らない(再生する)自然エネルギーのことで、初期投資は大きくても原料費がかからないので長期的費用が安くなるエネルギーです。しかし日本では、この開発・普及が、先進国だけでなく途上国と比べても遅れているのです。日本は周辺を海に囲まれ、季節風も吹き、水量も多く、地熱も豊富にあるので、再生可能エネルギーの潜在的資源は大きいのです。これをうまく利用すれば日本のエネルギー自給も可能になります。日本の再生可能エネルギーの潜在的資源はドイツの9倍もあるが、実際に利用されているのはドイツの9分の1に過ぎないという試算もあります。


(人権尊重・労働環境改善)
1997年にアメリカで、スポーツメーカー企業ナイキ(Nike)の途上国の契約工場において、児童労働と人権侵害があったことがNPO(非営利の民間活動団体)によって告発され、大規模な不買運動が起きました。1960年代から1970年代にかけて、地球的規模で営業展開する多国籍企業(グローバル企業)が、途上国での安い人件費を求めて、劣悪な労働環境のもとでの低賃金、長時間労働、強制労働、児童労働を引き起こしたのです。2013年にはバングラデシュで起きた縫製工場のビル倒壊事故によって、死者1000名、負傷者2500名をこえる被害が出て、欧米企業のコスト削減の強制が劣悪な労働環境を生み出したからだ、との批判が高まりました。
先進国の有名アパレルメーカーがインドやバングラデシュにおいて下請け工場で児童労働に関わっていたことも告発され、批判を浴びました。児童労働とは、就業最低年齢15歳(健康・安全・道徳を損なう恐れのある労働は18歳)を下回って行われている労働です。ILOによれば、2012年の世界の児童労働者数は1億6800万人(うち8500万人が危険有害労働に従事)にも上ります。アジア、アフリカの途上国に多いです。
1976年には、経済協力開発機構(OECD)が多国籍企業行動指針を発表し、1977年には、国際労働機関(ILO)も「多国籍企業および社会政策に関する原則の三者宣言」を採択し、多国籍企業に対して人権尊重と労働環境の改善を求めました。2000年には国連グローバル・コンパクトも活動を始めました。
途上国での人権侵害の防止と労働環境の改善が、企業の社会的責任として求められたのです。


(消費者・顧客利益尊重)
近年、消費者の信頼を裏切るひどい企業不正事件(倫理逸脱、法令違反、犯罪行為)が多発しては、社会を騒がせてきました。
2000年以降、記憶に新しい事件を取り上げてみると、雪印食品集団食中毒事件、三菱自動車リコール隠し事件、東京電力原発トラブル隠ぺい事件、食肉産地偽装事件(雪印食品、日本ハム、伊藤ハム、全農チキンフーズ)、白骨温泉入浴剤問題、JR西日本福知山線脱線事故、明治安田生命保険金不払い事件、パロマ湯沸かし器死亡事故、不二家の期限切れ材料使用問題、白い恋人賞味期限改ざん問題、中国産ウナギの国産偽装事件、耐震構造書偽造事件、日本生活協同組合のミートホープ食肉偽装事件および同組合の中国現地工場における毒ギョーザ事件、などです。

近年では、阪急・阪神ホテルに始まる食材虚偽表示問題、JR北海道のレール異常放置事件、製薬会社ノバルティスのデータねつ造事件、みずほ銀行の暴力団融資事件、カネボウ化粧品白斑事件、マクドナルド中国工場の食品ずさん管理事件などが、世間を騒がせました。また最近に至るまで企業による顧客情報流出事件が、後を絶ちませんでした。タカタ製のエアバッグが異常破裂する事件では、海外で10人以上が亡くなり、日本でもけが人が出て、1900件ものリコールに発展しました。タカタはこの費用負担により経営破たんしました。
これらの事件によって、なんの罪もない消費者が、ダマされたり、損失をこうむったり、健康被害・身体障害被害を受けたり、命を失ったり、一度に数百人もの命が犠牲になったり、それらのリスクに遭遇したりしたのです。

これらの不正事件を引き起こした背景はさまざまですが、基本は同じです。
経営トップが企業を私物化して私利私欲や自己保身に走ったり、儲け至上主義をあおり、会社の利益になるなら嘘をついても不正をしても構わなく、都合の悪いことは隠ぺいすればいいという空気をつくりだし、消費者の安心・安全のためのリスク管理費用をコスト削減の対象にし、このような意識が社員のなかに浸透して倫理・法令順守意識が薄れ、ずさんな仕事の温床になっていったのです。

企業には、その本業として、安心・安全で信頼できる商品やサービスを消費者・顧客に提供する社会的責任があります。
しかし、これらの改革には、小手先では無理で、後に述べるコンプライアンス、透明性・情報公開促進、リスク管理、コーポレート・ガバナンスという企業体質の抜本的改革が必要となります。


(労働者・従業員利益尊重)
先進国においても、企業によるパワー・ハラスメント(上司による暴言・暴力・嫌がらせ)・セクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)・マタニティ・ハラスメント(妊婦に対する嫌がらせ)・女性の差別待遇などの人権侵害および低賃金・長時間労働・過重労働・リストラ解雇などの労働基本権の無視が、公然と横行するようになりました。
とりわけ日本においては、企業が、労働基準法で定めた1日8時間労働を無視するようになり、サービス残業(不払い残業)による長時間労働や過重労働が日常化しました。その結果、バブル崩壊後の1980年代後半以降、「働き過ぎによる過労死」が激増して社会問題になりました。厚労省統計によれば、脳・心臓疾患(死亡ふくむ)の労災申請は、年間800件を上回る水準で推移していますし、2000年以降、うつなどの精神障害発症(自殺ふくむ)による労災申請は激増し、年間1200件を超えるまでになっています。警察庁統計によれば、勤務が原因での自殺は年間2000件を超えています。
近年、若者を大量に採用し、過大なノルマを課したり、暴言や暴力などのパワー・ハラスメントを繰り返したり、違法な長時間労働や過重労働をさせて心身ともに使い潰す、いわゆる「ブラック企業」が社会問題になりました。「若者の使い捨て」が疑われる企業への厚労省の立ち入り検査(2013/12/17)によると、8割に法令違反があり、「違法な時間外労働(43.8%)」、「賃金不払いの残業(23.8%)」などのひどい実態でした。

パートタイマー、派遣社員、契約社員などの非正規労働者の比率も、2013年には3人に1人と過去最高となりました。総務省が発表した2013年の非正規労働者は平均1906万人で、労働者全体に占める比率は36.6%と過去最高で、2010年以降4年連続の上昇です。女性は55.8%と高く、男性も初めて21.1%と初めて2割台をこえました。
さらに2015年9月に総務省が発表した非正規労働者は平均1986万人で、労働者全体に占める比率は37.2%と過去最高で、2010年以降5年連続の上昇でした。女性は55.9%と高く、男性も初めて21.7%と昨年に続き2割台をこえました。
また厚生労働省の2015年11月発表によれば、正社員以外の労働者の割合は、2014年10月時点で、40.0%で、前回の38.7%から上昇し、1987年の調査以来、初めて4割に達しました。
非正規労働者は、収入が低く、社会保障サービスも薄く、教育・訓練を受ける機会が少ないなどの不安定な状態にありながら、正社員なみの仕事を押しつけられるなどの問題をかかえています。

非正規労働者の比率が高まる中、正社員の仕事を学生アルバイトに肩代わりさせ、低賃金で重労働やノルマを強いたり、残業代の未払いや休憩なしの違法な長時間労働をさせ、試験時にも交代させてくれない・辞めさせてくれない、いわゆる「ブラックバイト」も増加しました。学生たちは、各地で「学生ユニオン」などの労働組合を結成し、違法バイトと対抗する動きを強めています。

安倍晋三首相は、2012年からの2年間のいわゆる「アベノミクス」の成果として、「100万人の雇用を生み出した」と自画自賛していますが、実態は、正規労働者が約50万人減り、非正規労働者が150万人増えただけのことです。
総務省の労働力調査によると、2014年の非正規労働者は、1962万人で5年連続の増加と過去最高を更新しました。反対に正規労働者は3278万人で7年連続の減少となったのです。不本意ながらやむなく非正規労働に就いた人は、約331万人もいるそうです。

改正労働契約法の適用が2018年4月からスタートします。これは同じ職場で「一年」、「半年」などの短期で雇用され、それを繰り返している人が、通算5年を超えると、当人の希望があれば、期間の定めのない無期雇用に転換しなければならない法律です。パート、アルバイト、契約社員、派遣社員などのおよそ400万人の非正規労働者に適用されるのです。自動車産業が適用逃れをしたり、大学によっては選抜試験を導入して妨害しようとする動きもありますが、法律によって許されていません。非正規労働者の不安定雇用を改善するための重要な一歩です。ただし無期雇用になっても一時金も退職金もない状況は続くので、正社員化をめざすとり組みが今後の課題です。

安倍政権は、2016年9月に総理の私的諮問機関である「働き方改革実現会議」を立ち上げ、11月までに3回の会合が開かれました。そしてその「働き方改革推進法案」を2017年1月からの通常国会で一括審議にかける方針です。
過労死防止とか、同一労働・同一賃金などのかけ声だけは勇ましいですが、その中味は、期待できるものではありません。長時間労働を法律で罰するといっても、その上限は過労死ラインであって繁忙期の抜け穴がありますし、残業代ゼロの長時間労働になる裁量労働制を拡大しようとしています。また非正規の正規化を進めるものではありませんし、生産性向上の名によって労働者保護の対象外になる非雇用型就業を進めようとしているのです。

2008年に、国際労働機関(ILO)は、「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」で、「ディーセント・ワーク:Decent Work(働きがいのある人間らしい仕事)」という理念を、ILOの新しい使命として宣言しました。
ディーセント・ワークとは、「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事ということで、それはまた、すべての人が収入を得るための十分な機会を与えられていて、十分な仕事があること」と定義されています。
2011年に、国連「ビジネスと人権に関する指導原則:保護、尊重および救済枠組実施のために(ラギー報告)」は、国家と企業に対し、人権順守と人権救済を求める具体的で詳細な原則を定め、その実行を促しました。
2012年には、国際NGOセーブ・ザ・チルドレン、国連グローバルコンパクト、ユニセフの策定した「子供の権利とビジネス原則」は、若年労働者および子どもの親や子どもの世話をする人々に、「働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)」を提供することを、企業に求めています。
このように、人権と労働基本権の尊重は、企業と国家の重要な社会的責任として、ますます強く要請されるようになっているのです。


(貧困・格差是正)
資本主義の発展は、富裕層と貧困層の間の経済・所得格差を拡大させ、貧困層の増大をもたらしました。
フランスのパリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏が、2013年に出版した『21世紀の資本』は、原著969頁をこえる分厚い専門学術書であるのに(英語版696頁、日本語版806頁)、またたく間に世界15ヶ国以上で翻訳され、アメリカで50万部、そして世界でも150万部も売れる異例のベストセラーになりました(2015年2月現在)。
それもそのはずで、20ヶ国以上の国の税務資料を収集して、1870年以降の歴史的データを時系列的に分析し、経済格差・所得格差の歴史的変動過程を、実証的に明らかにしたからです。このような超長期にわたる実証分析は歴史上初めてのことなので注目されたのです。
その実証分析に基づけば、資本主義が所得分配の平等化をもたらしたのは、資産が破壊された世界大戦後の特殊な時期(高度経済成長期)だけのことであって、19世紀以降のほとんどの時期で資本主義は格差を拡大しており、今後もさらに不平等を拡大させる、というのです。
なぜなら、働いて得られる賃金などの労働所得よりも、資本による所得の方がより大きく、それが不平等を拡大するからだといいます。アメリカではすでにトップ10%の人々が資産の70%を保有し、40%の人が25%を、そして50%の人は5%を保有するに過ぎません。これが相続されていくことで、ますます格差は拡大し、この世襲型資本主義が世界で広がれば、能力主義や民主主義を破壊すると警告しているのです。

このような所得格差拡大を測るために、経済協力開発機構(OECD、加盟34ヶ国)は「相対的貧困率」という指標を考案し、加盟国のデータを公表しています。相対的貧困率というのは、その国において、国民の手取り年収を順番に並べたとき、中央に位置する人の半分未満しか年収のない人々の、全人口に占める割合のことです。例えば、手取り年収244万円が中央に位置する人の金額であるとき(2012年度の日本の例ですが)、年収が122万円に満たない人々の、全人口に占める割合のことです。

OECD2014年公表データによれば、OECD加盟34ヵ国全体で所得格差が深刻になっていますが、その中でも特徴的なのは、第1に、アメリカが17%前後という高水準で推移していることです。17%という数字は、国民の5人に1人が貧困だということです。第2に、日本においては、1985年に12.0%であった数値が、2006年に15.7%、2009年に16.0%と拡大したことです。16.0%という数値は、実に6人に1人が貧困層であるということです。

この結果、2011年OECDの国別比較において、貧困化率の高い順でみれば、先進国では、アメリカが第1位、日本は第2位となりました。途上国も合わせた貧困化率の高い順位は、イスラエル、メキシコ、トルコ、チリ、アメリカ、日本の順となります。かって一億総中流社会と言われた日本も、今やアメリカと肩を並べる堂々たる格差社会・不平等社会になったのです。

日本の子どもの相対的貧困率も1985年以降拡大し、2010年には15.7%で、OECD加盟国において貧困化率の高い順でみて、第10位と悪くなりました。子どもの相対的貧困率とは、17歳以下の子どもについて、手取り収入が中央に位置する人の半分にも満たない世帯に属する子どもの、17歳以下の子ども全体に対する割合です。OECD発表の国別比較において、貧困化率の高い順で第10位以内に入っている先進国は、やはり第6位のアメリカと日本だけです。日本では、子どもの貧困は6人に1人という割合になります。
さらに深刻なのは、世話する大人が一人だけ(一人親家庭など)の子どもの相対的貧困率は、OECD発表の国別比較において、日本が50.8%で、OECD加盟国中、最も悪く最低だということです。実に子ども2人に1人が貧困なのです。

厚生労働省が2016年の国民生活基礎調査で、最新データを発表しました(2017年6月27日朝日新聞)。それによると労働環境がよくなり少しは改善しましたが、依然として深刻な貧困状態にあります。全体の貧困率は前回より0.5ポイント改善して15.6%で、主要36カ国で29位でした。18歳未満の子供の貧困率は、母親に正規の仕事がある世帯が多くなって、過去最悪だった2012年の16.3%から2.4ポイント改善し13.9%になりました。それでも子ども7人に1人が貧困状態で、これは韓国の7.1%にも及ばす、主要36カ国で24位にとどまっています。一人親世帯の貧困率も前回より3.8ポイント改善しましたがそれでも50.8でした。子ども2人に1人が貧困なのは変わっていません。

日本においてこれらの貧困をつくり出した要因は、パートタイマー、派遣社員、契約社員などの非正規労働者の比率が、2013年には3人に1人と過去最高となり、それ以降も増大していることにあります。前述したように総務省が発表した2015年9月の非正規労働者は平均1986万人で、労働者全体に占める比率は37.2%と過去最高になり、2010年以降5年連続の上昇です。女性は55.9%と高く、男性も初めて21.7%と昨年に続き2割台をこえました。
2013年の総務省の調査によると、非正規の男性の78%は就労収入が年間300万円に届かないといいます。不本意ながらやむなく非正規労働に就いた人は、約331万人もいるそうです。

玉木OECD事務次長は、2014年5月に、OECDパリ本部にて、「日本では経済成長ばかりが話題になっているが、欧州ではいかにして格差を縮小するかが課題になっている……安倍内閣の政策で格差が拡大しているのに、こうした議論がないのは注目に値する」と、警告しました。

相対的貧困は、生活水準が中位の人と比べて低い人々のことですが、貧困には、生活水準が生きるのに必要な最低限以下である絶対的貧困もあります。このような絶対的貧困を、世界銀行は、「1993年の購買力平価換算で一日当たりの生活費1ドル未満で生活している人」と定義しましたが、2008年に1日1.25ドルに改訂しました。世界銀行のデータによれば、1990年には19億人だった貧困層が、2010年には12億人まで改善されました。それでも世界人口の4人に1人が絶対的貧困の状態にあります。

このような経済格差は、世界中でますます拡大しております。
2016年1月に、国際NGO(Oxfam)は、世界で最も裕福な62人の資産の合計が、世界の所得の低い約36億人の資産合計と同じであるとして、世界の指導者に格差是正をよびかけました。続いて2017年1月には、世界で最も裕福な富豪6人の資産の合計が、世界の所得の低い約36億人の資産合計と同じであるとして、裕福な個人と企業に対する課税を引き上げ、法人税引き下げ競争や政治の「縁故主義」をやめることなどを提案しました。

経済格差が拡大していくのは、資産(金融商品+不動産など)を多く保有する富裕層が、資産を倍々ゲームで増やしていけるからです。余裕資金の豊富な富裕層は、ハイリスクハイリターンの資産運用が可能であり、専門知識と情報量の豊富な資産運用のプロに委託が可能であり、金融資産と金融取引への税金が安く、タックスヘイブン(租税回避地)を利用できるのです。

タックスヘイブン(租税回避地)とは、税金が低く、税務情報や取引情報を隠しておける闇地域のことで、英領ケイマン諸島、英領バミューダ諸島、英領バージン諸島、英王室属領マン島などがあります。
2016年4月公表のパナマ文書さらに2017年11月公表のパラダイス文書によって、これらのタックスヘイブンが、政治家、大企業、経営者、富裕層などの税金逃れや犯罪・違法行為で得た資金の出所を隠すマネーロンダリング(資金洗浄)、さらにさまざまな法規制や金融CSR規制を逃れるために利用されている実態が暴露されました。

パナマ文書とは、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な機密顧客情報のことです。これを南ドイツ新聞が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICJC)が分析して、2016年4月に公表したのです。各国の首相、大企業、富裕層の関係者の氏名が暴露されました。アイスランド首相、パキスタン首相、イギリスのキャメロン首相、ウクライナ大統領、プーチン大統領、中国の習近平国家主席、日本では、セコム、ソフトバンク、丸紅、伊藤忠商事、上島珈琲社長、楽天三木谷社長などです。

パナマ文書公表の衝撃は大きく、その後、次のようなことが続きました。
アイスランド首相、パキスタン首相が辞任し、イギリスのキャメロン首相は政治的苦境に陥りました。中国ではパナマ文書関連のネット記事が徹底的に削除され、特集記事をあげた香港新聞社の編集長が解雇されました。
2017年4月には、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICJC)にピュリツアー賞が贈られました。ICJC には約80ヵ国のジャーナリスト800人が参加しており、日本からは朝日新聞社、共同通信社が加盟、その後NHKも参加しました。
2017年10月に、地中海のマルタ共和国において、パナマ文書を基に政府の疑惑を追及していた女性ジャーナリストが爆殺されるという、許されない事件が起きました。

パラダイス文書とは、バミューダ諸島の法律事務所「アップルビー」から流出した顧客と取引に関する膨大な機密情報です。これも南ドイツ新聞が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICJC)が分析して、2017年11月に公表しました。各国の現役閣僚や元首相、大企業、富裕層、歌手、ミュージシャンの氏名が暴露されました。米国ロス商務長官、エリザベス女王、カナダ首相、アルゼンチン金融相、パキスタン元首相、鳩山由紀夫元首相、オーストリア元首相、コロンビア大統領、コスタリカ元大統領、カナダ元首相、アップル、ナイキ、マドンナ、ボノなどです。

貧困・格差を是正し、人間らしい文化的・経済的生活を保障することは、企業および国にとっての重要な社会的責任なのです。
これまで述べてきた人権と労働基本権の尊重原則および貧困是正と人間らしい文化的・経済的生活の保障原則は、新しいものではありません。
1944年には、国際労働機関(ILO)のフィラデルフィア宣言で、「労働は商品ではない」と定められています。
また1948年に、第3回国連総会の決議として採択された「世界人権宣言」は、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として、第1条において、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である」と宣言し、第22条で、「すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ国家的努力及び国際的協力により、また各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的および文化的権利を実現する権利を有する」と定めています。
1976年には、世界人権宣言の内容を基本とし、それを法的拘束力のある条約にまとめた二つの国際人権規約、「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(国際人権A規約)」と「市民的および政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)」が、1976年に発効しました。条約は法的拘束力があるので、条約締約国はその実施措置を求められます。1997年現在の締約国は、A規約が137ヵ国、B規約が140ヵ国です。

1946年制定の日本国憲法でも、第11条には、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる」と宣言されています。第13条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とあります。さらに25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定められています。

しかし日本における企業の社会的責任(CSR)の取組みで、もっとも弱いと指摘されているのは、これまで述べてきたところの人権と労働基本権の尊重原則なのです。


(コンプライアンス、透明性・情報公開促進、リスク管理、コーポレート・ガバナンス)
2000年代に入ってアメリカにおいて、世界最大級の企業会計不正事件が続発しました。
2001年には、全米第7位の総合エネルギー・IT企業であったエンロン社が、ウオールストリートジャーナル誌によって不正会計疑惑を報じられ、巨額の不正経理と粉飾決算が明るみになり、負債総額300億ドル以上(約3兆円以上)をかかえて倒産しました。アメリカ史上最大の企業破たんです。エンロン社は、意図的な計画停電を起こし電気料金をつり上げた悪徳企業ですが、そればかりか損失を連結対象外の子会社に移し(「飛ばし」という手法)、利益があるように装い株価を高めていたのです。この会計監査にあたっていた世界5大会計事務所のアーサー・アンダーソンは、粉飾会計と証拠隠滅にかかわったとして起訴され、2002年に解散しました。企業年金を自社株で運用していた人たちは、年金が消滅しました。
2002年には、大手電気通信企業のワールドコム社において、不正経理と粉飾決算が内部監査人によって告発され、それを機に破たんしました。負債総額は400億ドル(約4兆円)でエンロン社の負債総額を超えました。不正経理で利益を装い、自社の株価を下支えしていたのです。

いずれも不正の要因は、株価が上がれば経営者の報酬が引き上げられるからであり、加えて、会計をチェックする監査法人が、会計監査とは別に多額のコンサルタント料を支払われていたので不正を手助けしたからです。
このような事件が続発すれば、アメリカの証券市場への信頼をなくすと危機感をもった政府は、再発防止のために、上場企業会計改革・投資家保護法(サーベンス・オクスレー法:SOX法)を2002年に制定しました。その内容は、コーポレート・ガバナンスの改革(監査委員会の独立性強化など)、透明性・情報公開の促進(簿外取引の開示、財務報告に対する経営者の内部統制責任など)、会計監査制度の改革(監査法人の会計監査と非会計監査業務の同時提供禁止など)、企業不正に対する罰則強化、内部告発者の保護などで構成されています。

日本でも同様の企業会計不正事件が、続発しました。1997年に山一証券は簿外債務による損失隠しの不正操作で、自主廃業に追い込まれました。1998年には長期信用銀行がいわゆる「飛ばし」という偽装での粉飾決算で経営破たんしました。さらに2006年に、いわゆるホリエモンのライブドアーが粉飾決算で破たんしました。これらの不正で多くの投資家が大きな損失を抱え込まされました。
再発防止策として、2006年に日本版SOX法といわれる金融商品取引法が制定され、上場企業と連結子会社に適用されました(2008年実施)。2006年には企業活動全般を対象として適用する新会社法も施行されました。
日本版SOX法は、経営者に、①業務の有効性と効率性、②財務報告の信頼性、③事業活動に関係する法規・法令の順守、④資産の保全という四つの内部統制(企業内の管理のしくみ)を求め、②の財務報告の信頼性に関しては、その実施状況についての報告書作成義務を課し、公認会計士によってその監査を受けることを義務づけました。

しかしその後も企業不正会計事件は続き、2007年にカネボウが2000億円をこえる巨額の粉飾決算で破たんしました。2011年には大王製紙の経営者が、100億円をこえる資金を不正に引き出しカジノにつぎ込んでいたことで起訴されました。さらに2011年には、オリンパスにおいて、長期にわたる損失隠しの粉飾決算が明らかになり、それにかかわった経営陣が逮捕されるという事件が起きました。2015年には、日本を代表する大企業の東芝において、3代続く社長の指示で、7年間にわたって1500億円にものぼる不正会計処理(利益のかさ上げ)が行われていたことが発覚し、3社長の辞任に至りました。いち早く社外取締役をふくめた監査委員会を置くなどしたコーポレート・ガバナンスの先進企業も、社長の暴走を止められなかったのです。

これ以降も企業の悪質な不正事件は続いております。
2016年4月には、三菱自動車が、軽自動車4車種で燃費試験データを改ざんする不正を行っていたことが明らかになりました。該当台数は、62万5000台にものぼりました。タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を意図的に操作し、実際の燃費より5~10%程度よくみえるように改ざんしていたというのですから、きわめて悪質です。三菱自動車は2000年と2004年に2度にわたって大規模なリコール隠しがあって、大きく信頼を損ねたのですが、体質は変わってしていなかったようです。

2017年9月、日産自動車は新車の完成検査を無資格者がしていたことを公表しました。しかし問題は根深く、社長が是正会見をした後も不正が発覚し、その後の調査で、不正は1980年代からあり、書類偽装や発覚逃れの不正も常態化していたことが明らかになりました。10月にはスバルでも無資格検査が発覚し、30年をこえた慣行だったというのですから驚きです。

2017年10月以降、大手の素材メーカー三社で製品の検査データの改ざんがあったことが、次から次へと明らかになりました。
神戸製鋼所では、2016年6月にグループ会社でバネ用ステンレス銅線の強度偽装の不正があり、自主点検の過程でアルミ・銅製品でも性能データの改ざんが発覚したことが、2007年10月に公表されました。ところがその後さらに鉄鋼製品でもデータ改ざんがあったことが明らかにされ、不正事件は拡大していきました。問題は、この不正を現場の執行役員が認識していたこと、自主点検に対して不正を意図的に隠ぺいしたこと、データ改ざんは2007年以前から行われていた可能性があることです。アルミ・銅製品は飲料缶から家電、自動車、航空機などに、鉄鋼製品は自動車から鉄道車両など、海外にまで広く使われており、出荷先は525社におよび、出荷額は120億円にもなるということです。
三菱マテリアル子会社では、航空機や自動車で使われるゴム製のシール材でデータの改ざんがあったことが、11月に公表されました。出荷先は258社におよび、出荷額は約75億円にもなるとのことです。
東レ子会社でも、タイヤ補強材の品質データを改ざんする不正があったことが11月に公表されました。出荷先は13社におよび、出荷額は約1.5億円といいます。問題は、経営陣が2016年7月に不正を把握しておきながら隠しつづけたこと、経団連の榊原会長が東レの社長・会長在任中の出来事だったのに、その謝罪会見がなかったことです。

海外においては、2015年9月に、世界有数の自動車メーカー、ドイツのフォルクスワーゲン社の不正が発覚しました。米国での排ガス規制を逃れるために、ディーゼル車に違法なソフトウェアーを組み込んでいたのです。試験中だと排ガス浄化機能が働き、一般走行だと機能を落として燃費をあげ、窒素酸化物を大量に排出するというきわめて悪質なソフトです。この不正はアメリカにとどまらず欧州やインドでもあったことが明らかになり、対象車両は1100万台にもなるというのです。さらに11月には、二酸化炭素(CO2)の排出量を測定する際にも燃費性能が優れているように見せかける不正があり、これにはガソリン車もふくまれていることが公表されました。幹部30人以上が関与する組織ぐるみの不正でした。

アメリカでは巨大金融機関が子会社を使って不正な規制逃れをし、サブプライムローンを組み込んだ証券を世界中に販売して、世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)を2008年に引き起こしましたが、それから6年経っても、その不正に関与した経営者と社員の、個人としての刑事的・民事的責任は一人も問われていません。

さらにグローバル企業(地球規模に展開している企業)が、タックスヘイブン(租税逃避地)を使って巧妙な脱税をしていることについても、批判が強まっています。
依然として、コンプライアンス(倫理・法令・国際規範順守)、透明性・情報開示の促進、コーポレート・ガバナンス(企業の公正・誠実・健全性内部管理)は、企業の社会的責任の重要課題なのです。


社会的責任金融・国際的責任金融の担い手はどういう人々でしょうか

紀国は、「貨幣の万能力とその使い方で人類の持続的幸福に寄与すること」を、「社会的責任金融・国際的責任金融」と定義しました。

したがって社会的責任金融・国際的責任金融の担い手は、貨幣を使うか、貨幣を貸借するか、貨幣の決済や貸借を仲介するか、貨幣を運用するか、貨幣を管理するか、貨幣を発行するなどの行為にかかわりをもつすべての人々およびすべての組織、ということになります。

具体的には、市民、企業組織、金融組織、投資組織、社会活動組織、公的組織、国際組織さらに貨幣や金融を利用するそれ以外のすべての組織がふくまれます。
現代の多くの近代国家では貨幣経済が隅々まで普及しているので、貨幣を利用する人がほとんどだと思うのですが、そうだとすれば、その誰もが、貨幣を使って人類の持続的幸福に寄与できる機会を与えられている、といってもいいのです。

以下、社会的責任金融・国際的責任金融の担い手を、(A)消費者としての市民、(B)金融消費者としての市民、(C)企業組織、(D)金融組織、(E)投資組織、(F)社会活動組織、(G)公的組織、(H)国際組織、(I)その他組織、の順で説明していきましょう。


(A)消費者としての市民
市民は、個人として、労働力の提供や給付さらにそれ以外の様々な収入源などによって生活に必要な貨幣を受け取り、それを用いて自分の生命の維持や欲望の充足に必要な商品・サービスを購入し、それを使って生活を続けることができます。
貨幣の受け取り人として、および貨幣の支払い人として貨幣を使用するのです。したがって貨幣を使用する者の責任として、社会的責任・国際的責任を配慮する責務が発生します。

人間が自分の生命の維持と欲望を充足させるために必要なモノ・サービスを買い、それを使うことを「消費」といい、そのような行為をする人を一般に、「消費者」とよびます。このような個人単位の消費活動を、「市民消費」と定義しておきましょう。
ただし、消費活動は、個人単位の「市民消費」だけでなく、企業や金融機関およびそれ以外の組織の場合でも、新たなモノ・サービスの生産や提供のために既存のモノ・サービスを消費しますから(経済学では「生産的消費」といいます)、このような場合の消費を「組織消費」と定義しておきましょう。
そうだとすれば、消費を、個人単位の「市民消費」と、組織単位の「組織消費」に分ける必要が出てきます。

買い手としての消費者は、商品とサービスを購入するとき、その選択と判断の材料として、一般に、①価格、②品質、③安全性、④購入相手先などを基準としますが、現代においては、⑤社会的責任・国際的責任という基準も求められるようになってきました。

社会的責任・国際的責任に配慮した場合の消費活動を、「社会的責任消費」と名づけ、次のように定義することができます。
社会的責任消費:SRC(Socially Responsible Consumption)
「社会的責任消費とは、個人や組織が、社会的責任・国際的責任に配慮した消費を促進する行動をおこすとともに、みずからの消費活動もそれらを配慮して制御することです。」
社会的責任消費は、環境を配慮したグリーン購入・グリーン・コンシューム・持続可能消費、途上国の貧困と振興対策のフェアートレード消費とエシカル消費(倫理的消費)、人権配慮消費、平和貢献消費など、社会的責任に関係する広い範囲の社会的消費行動をふくみます。

消費活動には、「市民消費」と「組織消費」の二つの種類があることは前述しましたが、同様に社会的責任消費の場合にも、個人単位の「社会的責任市民消費」と、組織単位の「社会的責任組織消費」があることになります。社会的責任組織消費については、後に述べるところの組織(C)(D)(E)(F)(G)(I)のすべてに関係します。

(社会的責任市民消費)
個人単位の市民に関係する社会的責任市民消費について、考えましょう。

社会的責任市民消費は、次のように定義できます。
社会的責任市民消費(Socially Responsible Consumption of Citizens)
「社会的責任市民消費とは、市民が、社会的責任・国際的責任に配慮した消費を促進する行動をおこすとともに、市民みずからの消費活動もそれらを配慮して制御することです。」

これらの活動に際しては、国際消費者機構の定めた消費者の8つの権利と5つの責任原則は行動指針となります。また国連の消費者保護のためのガイドラインは、その実施を政府に求める指針となります。さらに選択と判断に必要な情報を、誰もが簡単にわかる、みえる、知り得るようにするためには、情報などの無形的利用物に適用されるソフトウェアー・ユニバーサルデザイン原則が具体化され、実践されなければなりません。

社会的責任市民消費も、環境に配慮したグリーン購入・グリーン・コンシューム・持続可能消費、途上国の貧困や振興対策のフェアートレード消費とエシカル消費(倫理的消費)、人権配慮消費、平和貢献消費など、社会的責任に関係する広い範囲の社会的消費行動をふくみます。

また、国際消費者機構(CI:Consumers International)が1982年に定めた「消費者の8つの権利と5つの責任」原則は、消費者および消費者団体にとっての行動指針となります。
国際消費者機構は、地域、国、地方の消費者団体、消費者の政府機関、消費者関連のグループをメンバーとした非営利の国際的消費者団体です。2015年現在では、120カ国で250を超える会員組織で構成されています。すべての消費者にとって公正、安全で持続可能な社会をつくるために取り組んでいます。

国際消費者機構(CI)の定めた「消費者の8つの権利と5つの責任」は、次の内容です。
(消費者の8つの権利)
①生活の基本的ニーズが満たされる権利(十分な食糧、衣服、住宅、医療、公共サービス、水、公衆衛生など、基本的で必需な商品・サービスを得られること)。
②安全である権利(健康や生命に危害を加える生産物、生産過程、サービスから守られること)。
③知らされる権利(選択に必要な諸事実および不正で誤った広告や表示から自分を守るのに必要な諸事実を知らされること)。
④選択する権利(満足できる品質をもち競争価格で提供された多くの生産物とサービスの中から選択できること)。
⑤意見を反映させる権利(政府の政策策定と施行および生産物とサービスの開発に際し消費者利益を反映できること)。
⑥救済を受ける権利(虚偽表示、偽物、不満足なサービスの補償をさせるなど、正当な請求に対して公正な解決を受けること)。
⑦消費者教育を受ける権利(基本的な消費者の権利と責任およびそれらに基づきどのように行動すべきかについて学ぶとともに、商品とサービスについて知り、自信をもっ て選択できる知識と能力を得ること)。
⑧健全な環境で暮らす権利(現在および将来世代の福祉を脅かさない環境で生活し働くこと)。

(消費者の5つの責任)
①批判的意識(商品とサービスの品質についてより敏感に探究意識をもつ責任)。
②自己主張と行動(公平な対応を確実にするために自己主張し行動する責任)。
③社会的責任意識(自分たちの消費行為が他の市民に与える影響について、とりわけ社会的弱者および社会的・経済的現実への影響について、関心をもち敏感である責任)。
④環境配慮意識(自分たちの消費行為が環境に与える影響について、現在と将来世代の生活の質を改善する重要策として資源保護を促進し、調和的な方法で発展させること に、とくに敏感である責任)。
⑤連帯(最良でもっとも有効なのは、消費者利益に十分に注意を向け得る力と影響力をもてるように、消費者と市民グループが共に協力的努力をする責任)。

さらに、国連「消費者保護のためのガイドライン」も、政府にその実施を促す指針として重要です。国連は、1985年の総会で、下記の「消費者保護のためのガイドライン」を全会一致で採択しました。1992年の国連環境開発会議を受けて、1999年に⑦の「持続可能な消費様式」が追加されました。ガイドラインですが、各国の消費者政策の指針となるものです。各国政府は、下記のガイドラインと関連する国際合意を考慮して、強力な消費者保護政策を策定し実施すべきである、と定めています。
①健康と安全に対する危害から消費者を保護すること。
②消費者の経済的利益を促進し保護すること。
③消費者が十分な情報を入手でき、個々の要望と必要に応じた選択をできること。
④消費者の選択が環境、社会、経済へ及ぼす影響について教育することもふくめ、消 費者を教育すること。
⑤効果的な消費者救済策を利用できるようにすること。
⑥消費者団体や関連団体あるいはそのような組織を結成する自由を与えること、およ びかれらに影響を及ぼす政策の決定過程で意見を表明できる機会をそれらの組織に  与えること。
⑦持続可能な消費様式を促進すること。

社会的責任市民消費について、次のような具体的な行動原則を考えてみました。
これはまだ紀国案ですので、この素案を基にして、さらに良いものにしていきたいと思います。

社会的責任市民消費12原則(紀国案)
(以下の原則文において、①は基本原則であり、②から⑥は支援購入原則であり、⑦から⑩は排除購入原則であり、⑪と⑫はこれらの選択と購入に不可欠な、情報公開と購入ゆとり原則です。また以下の原則文において「組織」とは、企業組織、金融組織、投資組織、社会活動組織、公的組織、国際組織、その他組織、をふくみます。)
①人類の持続的幸福をめざして、環境、人権、平和などの社会的責任・国際的責任に配慮した商品・サービスについて鋭敏になり、組織に対してそれらの配慮を求めて監視 を強め、必要ならば法的義務を課すことを要求するとともに、みずからの消費活動もそれらを配慮して制御する。
②環境、人権、平和などの社会的責任・国際的責任に配慮した商品・サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスを積極的に購入する。
③富裕層や余裕資金が豊かな人は、貨幣を多く所有するものの社会的使命として、社会的責任・国際的責任に配慮した商品・サービスを積極的に購入し、それらの商品・サービスの価格安定と販売の拡大に寄与する。
④日本の地域活性化、農林漁業の振興、地産地消商品の普及など日本経済の自立的・持続的再生に寄与する商品・サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスを積極的に購入する。
⑤途上国の貧困救済に役立つ商品・サービス(フェアートレード商品やエシカル商品など)の提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスを積極的に購入する。
⑥脱原発・再生可能エネルギーを振興させ、地球温暖化阻止に向けてCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で採択されたパリ協定の推進に寄与する商品・サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスを積極的に購入する。
⑦労働者に対してパワハラ・セクハラや人権侵害をしたり、労働法違反となる過重労働・長時間残業を強いたりする企業組織(いわゆるブラック企業)さらに非正規労働(派遣、契約、パートなどの労働)の比率の高い組織およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、人権侵害と労働法違反行為をやめさせ、非正規労働者の待遇改善と希望する者の正社員化を求める行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスの購入を控える。
⑧脱税、タックスヘイブンを利用した租税回避、賄賂、暴力団との関わり、不正会計、違法行為、国際法令違反などの反社会的行為をする組織およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、そのような反社会的行為をやめさせる行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスの購入を控える。
⑨途上国の児童労働や搾取・人権侵害・環境汚染をするグローバル企業(いわゆる国際ブラック企業)およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、そのような非人間的行為をやめさせる行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスの購入を控える。
⑩核兵器生産や武器生産に関係する組織さらに途上国住民の抑圧・虐殺につながる紛争鉱物を使用している組織およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、そのような非人道的行為をやめさせる行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する商品・サービスの購入を控える。
⑪商品・サービスの購入選択および組織の利用選択に不可欠な、正確で誰でもわかる商品・サービスの生産と生産履歴および廃棄物の行先に関する情報の表示と公開(開示)また正確で誰でもわかる社会的責任情報と経営情報の公開(開示)を積極的に求め、必要ならば法的義務を課すことを要求する。
⑫社会的責任・国際的責任に配慮した商品・サービスの選択と購入および組織の利用選択が可能であるためには、ゆとりをもって選択・購入できることが不可欠であり、そのために格差を是正しすべての人に十分な収入の機会を与えることを求める。したがって社会的責任市民消費原則は、社会的責任市民収入原則と一体のものである。

(社会的責任市民収入の原則)
社会的責任・国際的責任を配慮した商品・サービスには、人類の持続的幸福と人間および人間社会の持続性を確保するための費用である「社会的責任費用・国際的責任費用」を組み込む必要があり、その費用が商品・サービスの価格にふくまれるので価格は高くなります。したがってそれらの商品・サービスをゆとりをもって選択・購入できるためには、これらの費用を負担できるだけの十分な収入機会が保障されることが不可欠です。これを「社会的責任市民収入の原則」と定義しておきましょう。

前述した社会的責任市民消費を実行しようにも、また実行したくても、収入が低ければ何もできません。また国際消費者機構の定めた原則の①生活の基本的ニーズが満たされる権利、②安全である権利、④選択する権利も、それを可能とする収入機会が保障されなければ実効性はありません。しかも世界全体で格差が拡大し、貧困が増している状況では、いくら消費者のための権利を主張しても、それは絵に描いた餅になります。
したがって社会的責任市民消費原則は、次に述べる五つの社会的責任市民収入原則と一体のものとして、実行される必要があるのです。

社会的責任市民収入6原則(紀国案)
①正規・非正規を問わず働く人々には、国際労働機関(ILO)が2008年に示した宣言「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」が適用されるべきです。
その根本にあるのは、「ディーセント・ワーク:Decent Work(働きがいのある人間らしい仕事)」という理念です。それは次のように定義されています。「ディーセント・ワークとは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事ということです。それはまた、すべての人が収入を得るための十分な機会を与えられていて、十分な仕事があることを意味します」。
②格差・貧困の大きな原因である非正規労働者の収入・待遇改善および希望する人の正社員化は急務です。家庭をもち安心して子どもを育てることのできる収入は、人間および人間社会の持続性を確保する費用です。
③最低賃金制度を見直し、「社会的責任費用・国際的責任費用」をふくめるようにして「最低賃金(時給)1500円」引き上げられるべきです。とりわけ日本の最低賃金額(時給)は、依然として先進国で最低レベルで、全国平均798円です(東京907円、京都807円、鳥取・沖縄693円)。アメリカでは、15ドル(1ドル120円で約1800円)に引き上げる都市や州が次々と現れています。
④生活保護受給者と年金生活者にも、「社会的責任費用・国際的責任費用」を負担できるだけの収入を保障する必要があります。
⑤格差是正・所得再分配政策(富裕層がより多く負担する累進課税の強化、社会保険料への累進制の導入、富裕税・資産課税など)、さらに社会的責任税制度(社会的責任を果たしている企業への減税とそうでない企業への増税)および公共事業などの政府・自治体が発注する業務を社会的責任を果たしている企業に受け負わせる社会的責任公契約制度などの社会的責任行財政制度を導入する必要があります。
⑥グローバル巨大企業と大企業による低賃金・低価格戦略による持続不可能循環・自滅経済循環を転換し、持続可能収入による持続可能好循環、地産地消、地場産業、中小企業、農林業、地域再生による内需拡大を推し進めるべきです。

社会的責任市民収入の原則を実現しようとする運動は、世界中で広がりをみせています。
韓国のソウル市においては、朴元淳市長の指導のもとに、ディーセント・ワークの実現が進められています。ソウル市は「労働尊重特別市」をスローガンにかかげ、非正規職員の正規化や生活賃金条例の制定、労働政策課の新設などを実施してきました。2012年以降ソウル市の公共部門で働く非正規職員9098人を正規職に転換し、最低賃金を上回る「生活賃金」を支払うことを義務づけ、それを市と契約を結ぶ企業にも波及させようとしているのです。

さらに2017年9月には、朴市長のよびかけで、韓国・ソウル市において「ディーセント・ワークを目指す都市国際フォーラム」が開催されました。ニューヨーク、ロンドン、東京都世田谷区など10の自治体と国際労働機関(ILO)、EU(欧州連合)、経済協力開発機構(OECD)など八つの国際組織が参加しました。ILOのガイ・ライダー事務局長は、ディーセント・ワークの実現に向けてた都市の役割として、雇用者の正規化と調達契約を通じた望ましい労働慣行の波及の二つを挙げました。

米国の非正規労働者が2012年から始めた時給15ドル(約1600円)の最低賃金を求める運動「ファイト・フォー・15」は、世界中に広がりました。2014年から世界35ヵ国での世界同時アクション行動が始まり、日本においても、最低賃金の大幅引き上げを求める運動が、各地のコミュニティー・ユニオンをはじめ、全労働系、連合系、中立系などの枠をこえて労働組合全体に広がり、大きな高まりをみせています。
2015年9月には若年層を中心として、「最低賃金(時給)1500円」を求める活動組織のエキタス(AEQUITAS、ラテン語で「公正」や「正義」の意味)が結成され、若者らしい活発な運動を繰り広げております。

賃金引き上げが消費を高めて経済成長と税収を確保できることが、ポルトガルにおいて実証されました。いわゆる「ポルトガルの奇跡」とよばれるものです。2015年10月に発足した社会党少数政権が、賃金と年金の削減を止めさせ、最低賃金と有給休日を改善させたことで、経済回復をしつつ、財政赤字を抑制できたのです。財政赤字は2015年の対国民総生産比4.4%から2016年には2.0%まで大幅圧縮し、過度の財政赤字を理由に欧州委員会から下されていた制裁措置が2017年5月に解除されました。


(B)金融消費者としての市民
市民は、個人単位の金融消費者として、専門的金融機関を利用し、貨幣を使った金融取引を行います。

貨幣の受け取りと支払いには、現金を用いるとともに、効率的で安全な金融機関(主に銀行)の決済性預金(普通口座や当座預金口座)を利用します。貨幣を受け取るときには自分の預金口座に振り込んでもらい、支払うときはそこから引き落としてもらうという、金融サービスを利用します。

さらに貨幣を貯蓄として運用する場合と貨幣の借入れをする場合がありますが、それにも専門的な技術と知識をもつ金融機関を利用します。
金融消費者が貯蓄として貨幣を貯めようとするとき、銀行・証券会社・保険会社・資産運用会社などが提供・販売する金融商品と金融サービスを利用して貨幣の運用を預託します。その選択と判断の材料として、一般に、①現金化容易性(流動性)、②手数料・費用、③リスクとリターン(安全性と収益性)、④預託先金融機関、などを基準としますが、現代においては、⑤社会的責任・国際的責任という基準も求められるようになってきました。

金融消費者が、住宅ローン、教育ローンなどの貨幣の借入れで金融機関を利用するとき、その選択と判断の材料として、一般に、①返済金利、②返済方法や期間、③返済可能額、④借入れ先金融機関などを基準としますが、現代においては、⑤社会的責任・国際的責任という基準も求められるようになってきました。

このように人間が、貨幣の決済(受け取りと支払い)あるいは貨幣の運用預託や借入れなどで、金融商品・金融サービスおよび金融機関を利用する行為を「金融取引」と定義しておきますが、社会的責任・国際的責任にも配慮した場合の金融取引を「社会的責任金融取引」と名づけ、次のように定義することができます。

社会的責任金融取引(Socially Responsible Financial Transactions:SRFT)
「社会的責任金融取引とは、個人や組織が、社会的責任・国際的責任に配慮した金融取引を促進する行動をおこすとともに、みずからの金融取引もそれらを配慮して制御することです。」

社会的責任金融取引についても、金融消費者としての個人が単位となる「社会的責任市民金融」と企業、金融機関、組織が取引単位となる「社会的責任組織金融」があります。
組織単位の「社会的責任組織消費」があることになります。社会的責任組織消費については、後に述べるところの組織(C)(D)(E)(F)(G)(I)のすべてに関係します。

社会的責任市民金融は、次のように定義できます。
社会的責任市民金融:SRFC(Socially Responsible Financial Transactions of Citizens)
「社会的責任市民金融とは、市民が、社会的責任・国際的責任に配慮した金融取引を促進する行動をおこすとともに、市民みずからの金融取引もそれらを配慮して制御することです。」

これらの金融取引に際しても、国際消費者機構の定めた消費者の8つの権利と5つの責任原則は、金融サービスが明示されていないとしても、行動指針となり得ます。また国連の消費者保護のためのガイドラインも、金融消費者に適用して、その実施を政府に求める指針となります。さらに選択と判断に必要な情報を、誰もが簡単にわかる、みえる、知り得るようにするために、金融ユニバーサルデザイン原則が具体化され、実践されなければなりません。

社会的責任市民金融について、次のような具体的な行動原則を考えてみました。
これはまだ紀国案ですので、この素案を基にして、さらに良いものにしていきたいと思います。

社会的責任市民金融12原則(紀国案)
(以下の原則文において、①は基本原則であり、②から⑥は支援購入原則であり、⑦から⑩は排除購入原則であり、⑪と⑫はこれらの選択と購入に不可欠な、情報公開と購入ゆとり原則です。また以下の原則文において「組織」とは、企業組織、金融組織、投資組織、社会活動組織、公的組織、国際組織、その他組織、をふくみます。)

①人類の持続的幸福をめざして、環境、人権、平和などの社会的責任・国際的責任に配慮した金融商品・金融サービスについて鋭敏になり、組織に対してそれらの配慮を求めて監視を強め、必要ならば法的義務を課すことを要求するとともに、みずからの金融取引もそれらを配慮して制御する。
②環境、人権、平和などの社会的責任・国際的責任に配慮した金融商品・金融サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスを積極的に購入する。
③富裕層や余裕資金が豊かな人は、貨幣を多く所有するものの社会的使命として、社会的責任・国際的責任に配慮した金融商品・金融サービスを積極的に購入し、それらの金融商品・金融サービスの価格安定と販売の拡大に寄与する。
④日本の地域活性化、農林漁業の振興、地産地消商品の普及など日本経済の自立的・持続的再生に寄与する金融商品・金融サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスを積極的に購入する。
⑤途上国の貧困救済に役立つ金融商品・金融サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスを積極的に購入する。
⑥脱原発・再生可能エネルギーを振興させ、地球温暖化阻止に向けてCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で採択されたパリ協定の推進に寄与する金融商品・金融サービスの提供に努力している組織を支援し、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスを積極的に購入する。
⑦労働者に対してパワハラ・セクハラや人権侵害をしたり、労働法違反となる過重労働・長時間残業を強いたりする企業組織(いわゆるブラック企業)さらに非正規労働(派遣、契約、パートなどの労働)の比率の高い組織およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、人権侵害と労働法違反行為をやめさせ、非正規労働者の待遇改善と希望する者の正社員化を求める行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスの購入を控える。
⑧脱税、タックスヘイブンを利用した租税回避、賄賂、暴力団との関わり、不正会計、違法行為、国際法令違反などの反社会的行為をする組織およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、そのような反社会的行為をやめさせる行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスの購入を控える。
⑨途上国の児童労働や搾取・人権侵害・環境汚染をするグローバル企業(いわゆる国際ブラック企業)およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、そのような非人間的行為をやめさせる行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスの購入を控える。
⑩核兵器生産や武器生産に関係する組織さらに途上国住民の抑圧・虐殺につながる紛争鉱物を使用している組織およびこのような組織と取引関係にある組織に対して、そのような非人道的行為をやめさせる行動をおこし、可能ならばそれらの組織が提供する金融商品・金融サービスの購入を控える。
⑪金融商品・金融サービスの購入選択および組織の利用選択に不可欠な、正確で誰でもわかる金融商品・金融サービスの生産と生産履歴および廃棄物の行先に関する情報の表示と公開(開示)また正確で誰でもわかる社会的責任情報と経営情報の公開(開示)を積極的に求め、必要ならば法的義務を課すことを要求する。
⑫社会的責任・国際的責任に配慮した金融商品・金融サービスの選択と購入および組織の利用選択が可能であるためには、ゆとりをもって選択・購入できることが不可欠であり、そのために格差を是正しすべての人に十分な収入の機会を与えることを求める。したがって社会的責任市民金融原則は、社会的責任市民収入原則と一体のものである。

(社会的責任市民収入の原則)
社会的責任・国際的責任を配慮した金融商品・金融サービスには、人類の持続的幸福を確保するための費用である「社会的責任費用・国際的責任費用」を組み込む必要があり、その費用が金融商品・金融サービスのコストや手数料等にふくまれます。したがってそれらの金融商品・金融サービスをゆとりをもって選択・購入できるためには、これらのコストと手数料等を負担できるだけの十分な収入機会が保障されることが不可欠です。

社会的責任市民金融を実行しようにも、また実行したくても、収入が低ければリスクや手数料を負担できません。また国際消費者機構の定めた原則の①生活の基本的ニーズが満たされる権利、②安全である権利、④選択する権利も、それを可能とする収入機会が保障されなければ実効性はありません。しかも世界中の国すべてで格差が拡大し、貧困が増している状況では、いくら消費者のための権利を主張しても、それは絵に描いた餅になります。
したがって社会的責任市民金融の場合にも、前述した社会的責任市民収入原則が適用され、それと一体のものとして実行される必要があるのです。


(C)企業組織
企業が経営者・株主の私的財ではなく、さまざまな人と利益を多面的に共有する社会の公共財であり、その活動が社会の広い範囲における関係者の利害に影響すること、および企業活動が影響を与える社会の人々をステークホルダー(組織と利害のかかわりがある関係者たち)と定義し、それらの人々の利益を尊重し、それらの人々との信頼関係をつくり出すことが、企業の社会的責任のための行動原則になっていったことについては、前述しました。
また、「社会的責任」という用語は、元々は、「企業の果たすべき社会的責任(CSR:Corporate Social Responsiblity)」を意味し、その責任内容にさまざまな政策課題や行動課題がふくめられるようになって発展してきたこと、および企業活動が地球規模化(グローバル化)した今では、地球環境や国境をこえた国際的責任というべき課題もふくめて使われるようになってきたことについても、前述しました。

企業は、商品・サービスを販売し、消費者から貨幣を受け取ります。この商品・サービスを生産するために、生産に従事した労働者・従業員に賃金として貨幣を支払います。さらに多数の多種多様な取引先から原材料を販売してもらったり、電気・運輸・通信サービスなどを提供してもらって貨幣を支払います。これらの貨幣の支払いと受け取りには、現金だけでなく金融機関の決済サービスを利用したりします。また運転資金や設備投資資金を、金融機関から借入れたり、証券取引所を通じて債券や株式を発行して調達したりします。余裕資金の運用も、金融機関や資産運用会社を利用します。
企業が立地した地域から、大気・土地・空間・環境などの自然資本や上下水道・電気・通信・道路・ゴミ焼却などの設備を提供してもらい、それらの使用料金を払うとともに、地域の雇用や税収で地域に貨幣を支払います。

企業は貨幣の受け払いと貨幣の貸借を通じて、社会や国際社会の多様な人々と関係し、影響をあたえるのです。企業規模が大きくなればなるほど、その範囲は大きくなり、国境を越えて営業展開するグローバル企業の影響は地球的範囲です。
企業がこれらの貨幣の利用に際して、社会的責任・国際的責任に配慮した生産的消費や金融取引をすれば、人類の持続的幸福に大いに寄与できます。企業は、社会的責任金融・国際的責任金融の重要な担い手なのです。

企業といっても、グローバル規模(地球規模)で経営展開する巨大企業から、大企業、中小企業、自営業、零細企業、家族企業まで、規模も、経営様式も、そして業種についても、実に多様な種類があります。

グローバル規模(地球規模)で経営展開する多国籍企業に対する行為規範としては、経済協力開発機構(OECD)が定めた多国籍企業行動指針(1976年~2000年)があります。多国籍企業行動指針は、OECD加盟の30ヶ国と非加盟の7ヶ国のあわせて37ヶ国の政府がその順守を確約したもので、多国籍企業に対する唯一の国際的に承認された行為規範です。しかしこの行為規範も強制力はないという問題があります。これらの有効性・実効性を高めていくためにはどうすればいいのかが、これからの課題となります。その内容を簡単に紹介しましょう。

経済協力開発機構(OECD)の多国籍企業行動指針(1976年~2000年)
①行動指針は多国籍企業に対し良き慣行の原則・基準を提供するものであり法的強制ではない。加盟国政府は行動指針の普及のため国内活動拠点「NCP:National Contact Points」を設置。
②持続可能な開発の実現、人権の尊重、現地能力の開発、人的資本の形成、コーポレート・ガバナンスの維持のため行動。
③活動、組織、財務状況・業績について適時にそして定期的に情報開示。
④従業員の権利の尊重、児童労働・強制労働の撤廃、受入国の水準を下回らない雇用・労使関係基準の採用、従業員の健康・安全確保のための適切な措置、集団解雇の合理的予告などを行う。
⑤環境、公衆の健康・安全を保護し持続可能な開発を実現することに十分考慮。
⑥賄賂その他の不当な利益の申し出、約束または要求を行うべきでない。
⑦消費者との関係において、公正な事業、販売および宣伝慣行に従って行動し、提供する物・サービスの安全性・品質確保のため合理的な措置を実施。
⑧受入国の技術変革能力の発展、受入国への技術・ノウハウ移転に貢献。
⑨法律・規則の枠内において競争的な方法で活動。
⑩納税義務の履行。


(D)金融組織
金融組織には、銀行、証券会社、保険会社、政府系金融機関、消費者金融・信販会社・事業者金融などのノンバンク(預金業務をしない貸金業者)、資産運用会社・機関投資家・職業的投資家、先物取引会社、FX業者(外国為替証拠金取引業者)、その他の貸金業者など、金融の自由化・国際化が進展した現在では、実にさまざまな種類の組織が現れるようになりました。
さらに規模からしても、地球的規模で営業展開する巨大複合金融機関(銀行・証券・保険を統合した巨大金融コングロマリット)から複合金融機関(銀行・証券・保険を統合した金融コングロマリット)、地方銀行、信用金庫、労働金庫、信用組合まで、さまざまです。

東京や大阪などにある証券取引所やニューヨーク、ロンドン、フランクフルトなど世界各国にある証券取引所も、貨幣の調達や運用を大規模にそして国際的に仲介するので、広い意味での金融組織にふくめることができます。

これらの金融組織が、社会的責任金融・国際的責任金融のきわめて重要な担い手であることは、議論の余地はありません。
第1に、社会的業務として、そして専業として、貨幣を取り扱っているからです。
第2に、一般企業と比べて、はるかに多くの広範囲な顧客層や取引先と、貨幣を通じた取引関係にあるからです。つまり金融組織がその取引関係を通じて、社会や国際社会に影響を及ぼす範囲はきわめて広いということになります。これらの組織が社会的責任基準・国際的責任基準を順守するとともに、その取引関係を通じて、これらの基準の啓発と教育に大きな役割を果たすことができるのです。
第3に、信用と信頼で網の目のように結ばれた決済連鎖や貸借連鎖のネットワークの中軸にあるからです。金融組織がリスク管理と情報公開などの社会的責任・国際的責任を配慮することにより、金融・国際金融システムの安定に大きな役割を果たせるのです。
第4に、金融組織に集積・集中された貨幣・情報・専門知識・技術が、金融特権や支配力などの金融権力を形成するからです。金融組織が社会的責任基準・国際的責任基準を順守することにより金融権力を抑制できるのです。
第5に、金融組織には、貨幣とともに、金融・国際金融に関する情報と専門知識そして金融技術が集積・集中されているからです。これらを活かして、社会的責任・国際的責任に配慮した金融商品や金融サービスを設計・開発・商品化することも可能となります。
第6に、金融組織も企業組織ですから、組織の管理・運営のために、地域から大気・土地・空間・環境などの自然資本や上下水道・電気・通信・道路・ゴミ焼却などの設備を提供してもらい、それらの使用料金を払うとともに、地域の雇用や税収で地域に貨幣を支払い、地域と利益を共有するからです。

このような理由から、金融組織の社会的責任(金融CSR:Corporate Social Responsiblity of the Financial World)には、企業としての社会的責任に加えて、社会的業務として貨幣を取り扱う金融組織としての、より高度な社会的責任が求められることになります。

それゆえ国際標準化機構(ISO)の「国際標準規格(ISO26000)」は、より厳しく金融組織に適用されることになりますし、金融組織もそれをふまえて行動すべきです。加えて地球的規模で営業展開する複合金融機関(金融コングロマリット)には、経済協力開発機構(OECD)が定めた多国籍企業行動指針やその他の国際行動規範が厳しく適用されます。

金融組織の社会的責任活動には、社会的業務において配慮すべき活動と、組織の管理・運営のさいに配慮する活動の二つがあります。これらは車の両輪のごとく進められるべきもので、いずれかが欠けてはなりません。環境配慮の金融商品を売り出しているのに、省エネ・省節電に不熱心では、見せかけの社会的責任活動(仮面CSR)と思われてしまうことでしょう。

金融組織が取り組むべき環境課題については、中央環境審議会「環境と金融に関する専門委員会(委員長:末吉竹二郎・国連環境計画金融イニシャティブ特別顧問)」が2010年に出した報告書『環境と金融のあり方について―低炭素社会に向けた金融の新たな役割―』において、「環境金融行動原則」の策定が提唱されました。これを受け、末吉竹二郎氏を発起人として、その趣旨に賛同した金融機関が起草作業にかかわり、2011年に原則とガイドラインが採択されました。以下、その原則です。2014年7月段階では、193の金融機関がこの原則に署名しています。

環境金融行動原則
①自らが果たすべき責任と役割を認識し、予防的アプローチの視点も踏まえ、それぞれの事業を通じ持続可能な社会の形成に向けた最善の取組みを推進する。
②環境産業に代表される「持続可能な社会の形成に寄与する産業」の発展と競争力の向上に資する金融商品・サービスの開発・提供を通じ、持続可能なグローバル社会の形成に貢献する。
③地域の振興と持続可能性の向上の視点に立ち、中小企業などの環境配慮や市民の環境意識の向上、災害への備えやコミュニティ活動をサポートする。
④持続可能な社会の形成には、多様なステークホルダーが連携することが重要と認識し、かかる取組みに自ら参画するだけでなく主体的な役割を担うよう努める。
⑤環境関連法規の遵守にとどまらず、省資源・省エネルギー等の環境負荷の軽減に積極的に取り組み、サプライヤーにも働き掛けるように努める。
⑥社会の持続可能性を高める活動が経営的な課題であると認識するとともに、取組みの情報開示に努める。
⑦上記の取組みを日常業務において積極的に実践するために、環境や社会の問題に対する自社の役職員の意識向上を図る。

日本の金融機関の金融CSR活動の状況については、金融庁が包括的なアンケート調査を実施してきました。この「金融の公共性研究所」サイトの「金融CSR研究会ページ」に、その調査結果を紀国が分析した論文をダウンロードできるようにしてありますので、関心のある方はそれをご覧になってください。

それによれば地方銀行を中心に多彩な金融CSR活動を展開しておりますが、組織をあげて取組みをしている金融機関の割合は、まだ三分の一程度です。
注目すべき取り組みをしているものとして、一つは、城南信用金庫の「脱原発キャンペーン」です。これは脱原発に向けて省電力・省エネルギーを積極的に進めるため、①節電プレミアム預金(ソーラーパネルなどを10万円以上買った人に利息優遇)、②節電プレミアムローン(ソーラーパネルなどの購入資金の融資優遇)を設定したものです。大手金融機関が脱原発融資に踏み出せない状況での画期的な取り組みです。
もう一つは、滋賀銀行が、「しがぎんSDGs宣言」をしたことです。これは「持続可能な開発目標(SDGs)」を推進する企業に対して融資金利を優遇する取り組みです(京都新聞2017年12月22日)。地方銀行で初めての取り組みですので、今後の推移を見守っていきたいです。

(E)投資組織
投資組織には、機関投資家、職業的投資家、企業の資産運用部門などの、運用収益を得るために公社債、株式、不動産、通貨、商品先物・金融先物、その他金融商品に貨幣を投資するすべての組織をふくみます。

機関投資家とは、資産運用を営業収益とする保険会社(生命保険・損害保険)、証券会社、公的年金基金、共済組合基金、企業年金基金、財団などの法人または団体などの総称です。
職業的投資家とは、資産運用を専門的な職業とし、資金を公募する資産運用会社(ファンド)のことですが、特定の富裕層から資産運用の委託を受ける私募形式の資産運用会社、いわゆるヘッジファンドもふくめることにします。
富裕投資家

これらの投資組織も、社会的責任金融・国際的責任金融の重要な担い手になります。
第1に、いずれの投資組織も、預託された貨幣の運用を、社会的業務および専業としているからです。
第2に、これらの投資組織は、ますます巨額の貨幣を集め、世界的規模で、株式・債券・通貨・不動産・商品先物・金融先物などに運用するので、その影響する範囲はますます広くなり、その影響力も巨大になっているからです。これらの組織がみずから社会的責任基準・国際的責任基準を順守するだけでなく、その順守を運用先に求めることによる波及効果はきわめて大きいのです。
第3に、投資組織の資産運用が世界の株価や証券価格の変動の撹乱要因になったり、短期的利益を求めて経営者に圧力を強めるなどして、持続的安定経済の妨げになるからです。これらの弊害は、投資組織が社会的責任基準・国際的責任基準を順守することによって抑制できます。
第4に、投資組織は、資産運用の情報や専門知識を保有しているので、それを活かして社会的責任・国際的責任に配慮した金融商品を設計し販売することができるからです。
第5に、投資組織も企業組織ですから、組織の管理・運営のために、地域から大気・土地・空間・環境などの自然資本や上下水道・電気・通信・道路・ゴミ焼却などの設備を提供してもらい、それらの使用料金を払うとともに、地域の雇用や税収で地域に貨幣を支払い、地域と利益を共有するからです。

このような理由から、投資組織の社会的責任:SRII(Social Responsiblity of Institutional Investors)には、企業としての社会的責任に加えて、社会的業務として貨幣の運用を担う投資組織としての、より高度な社会的責任が求められることになります。

それゆえ国際標準化機構(ISO)の「国際標準規格(ISO26000)」は、より厳しく投資組織に適用されることになりますし、投資組織もそれをふまえて行動すべきです。

国連:責任投資原則(UN PRI)は、2006年に、当時のアナン国連事務総長の呼びかけで、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(GC)が共同で作成したものです。年金基金や資産運用会社などの機関投資家に、「環境・社会・企業統治」の三要素を投資の意思決定過程に組み込むことを求めた原則です。
2006年4月に、国連:責任投資原則の署名式がパリとニューヨークの証券取引所で行われました。これに署名した機関投資家は、その原則に従うことと、その実施状況を報告することが要求されます。
この署名式には、16ケ国から66の機関投資家が参加し、その運用資産残高は5兆ドル(約555兆円)超と、世界のヘッジファンドの合計を上回る規模にもなりました。米最大の年金である米カリフォルニア州退職年金基金(カルパース)、世界最大級の2500億ドルを運用するノルウエー政府年金基金、英国最大の年金運用機関ハーミーズなども署名しました。日本からはキッコーマンの企業年金、三菱UFJ信託銀行、住友信託銀行、損害保険ジャパン、大和証券投資信託委託が署名しました。

責任投資原則(PRI)は、次の6原則で構成されています。
①投資分析と意思決定過程に「環境・社会・ガバナンス」問題を組み入れる。
②行動する株主になり「環境・社会・ガバナンス」問題を株式所有方針や業務に組み入れる。
③投資先に「環境・社会・ガバナンス」についての適切な情報開示を求める。
④投資業界にこの原則が受け入れられ実施されるよう働きかける。
⑤この原則の実施にさいし有効性が高まるよう協力して取り組む。
⑥この原則の実施に向けた活動と進行状況についてそれぞれが報告する。

国連:責任投資原則が提起した投資方針は、「環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)」のそれぞれの頭文字をとって「ESG投資」とよばれるようになりました。

世界のESG投資額は増大しており、2016年には22兆8900億ドル(約2470兆円)に達っするようになった。欧州では資産運用の全体の半分、米国では2割を越えますが、日本は3.4%にとどまっています。欧米で増えたのは、2008年のリーマン・ショックがきっかけです。目先の利益を追求する金融機関や企業が倒産し、「社会や環境に配慮した持続的成長をめざす方がプラス」との考えが広がったからといいます(朝日新聞2017年11月19日朝刊)。
日本においても、責任投資原則へ署名した組織は、2015年に年金積立金管理運用独立法人(GPIF)、第一生命保険、太陽生命、上智大学へと広がり、日本でのESG投資額は、2014年の70億ドルから2016年には4740億ドル(約51兆1200億円)へと70倍近くに増えました。

2017年12月にパリで開かれた気候変動サミットにおいて、保険会社や機関投資家、世界銀行などが、石炭火力などCO2排出量の多い企業から投資を引き上げる宣言をしたことは、前述しました。

投資組織の社会的責任活動についても、社会的業務において配慮すべき活動と、組織の管理・運営のさいに配慮する活動の二つがあります。これらも相たずさえて進められるべきものです。
上述した国連責任投資原則は、社会的業務としての活動原則ですが、社会的責任は投資組織の管理・運営のさいにも適用されなければなりません。投資組織が資金運用先に情報公開や人権配慮を要求しておきながら、みずからの組織が閉鎖的であったり人権無視の運営が行われていれば、社会から信用されないでしょう。

(F)社会活動組織
社会活動組織とは、営利を直接の目的とせず、なんらかの社会的役割を果たすために活動している組織のことです。例えば、新聞社や放送機関などのマスコミ・メディア組織、病院、介護・福祉施設、保育施設、小中学校などの教育組織、大学などの高等教育組織、さまざまな生活協同組合組織、、NPO(非営利民間組織)、政党、労働組合、宗教法人など、なんらかの社会的役割を担って活動している組織のすべてをふくみます。

社会活動組織の社会的責任活動についても、社会的業務において配慮すべき活動と、組織の管理・運営のさいに配慮する活動の二つがあります。
NPO/NGO法人のなかには、組織の管理・運営にさいしても社会的責任を果たす必要性を認めるところも現れ始めました。次のようにいいます。「我々自身も、情報公開、説明責任や雇用など、組織としての社会的責任をより一層自覚し、対応することが求められています。」(「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」ホームページより)。

日本の私学の麗澤大学においては、ISO26000を大学の運営に具体化させる先進的な取り組みが現れております。
他方、パラダイス文書で、スタンフォード大学など米国の104の大学や英オックスフォード大学・ケンブリッジ大学などの各国の名門大学が、タックスヘイブンのファンドに投資して、巨額の税逃れをしていた実態が明らかになりました。社会的責任意識を教授すべき高等教育機関にあってはならないことです。

(G)公的組織
公的組織には、各国の政府・自治体、中央銀行、政府系金融機関やその他外郭団体など、公的業務を担うすべての組織を広くふくみます。

公的組織が社会的責任金融・国際的責任金融の重要な担い手になることは当然のことです。
第1に、公的組織は、社会から託された公的業務として、貨幣を取り扱うからです。
第2に、財政業務において税金として徴収され再分配される貨幣は、国民的範囲の生活と福祉に影響を及ぼすからです。
第3に、中央銀行業務において独占的に発行され調整・管理される貨幣は、国民的領域のすべてに影響を及ぼすからです。
第4に、監督業務において、貨幣の有益で安全・健全な使い方を指導・管理する義務があるからです。
第5に、公的組織は企業組織と同様に、組織の管理・運営のために、地域から大気・土地・空間・環境などの自然資本や上下水道・電気・通信・道路・ゴミ焼却などの設備を提供してもらい、それらの使用料金を払うとともに、地域の雇用で地域に貨幣を支払い、地域と利益を共有するからです。

2015年に、社会的責任・国際的責任にかかわる具体的な総合的目標値:国連「持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals:SDGs」を、193の国連加盟国が合意し、2016年1月1日に発効したことは前述しました。
条約ではないので法的拘束力はありませんが、全会一致で採択され、各国が目標の達成に努めるという約束を表明しております。公的組織には、その実現に努力すべき責務があるのです。

公的組織の社会的責任活動についても、公的業務において配慮すべき活動と、組織の管理・運営のさいに配慮する活動の二つがあります。

経済産業省、環境省、厚生労働省、金融庁などの社会的責任活動の意識を調査した貴重な研究成果があります。その調査のまとめは、次のような厳しい批判的結論を出しています。「日本の行政機構のSRに対する認識は総じて低く、CSRを有効に推進するうえで各省庁の方針、組織、制度が確立していない」、「行政の存在自体がSRでありSRの部署をもつ必要はない(環境省、経済産業省)というような意見を述べて、SRからの組織の自己点検を拒んだり」、「経済界に対してCSRの有効な推進に向けた毅然たる規制や指導が足りない」(足立辰雄・井上千一編著『CSR経営の理論と実際』中央経済社、2009、pp.26~27)。

社会的責任の国際標準規格「ISO26000」には、次の七つの行動原則があります。①説明責任、②透明性、③倫理的行動、④組織と利害のかかわりがある関係者たち(ステークホルダー)の利益の尊重、⑤法の支配の尊重、⑥国際行動規範の尊重、⑦人権の尊重、の七つです。この行動原則は、公的組織にとりわけ厳しく適用されなければならないでしょう。

(H)国際組織
国際組織とは、国境をこえて二国間あるいは多国間にわたって活動しているすべての公的組織をふくみます。条約などの国際法に基づいて発足した国際連合およびその関係団体などの国際公的組織から、国際NGO(非政府国際組織)などの非営利の民間組織もふくみます。

国際組織が、社会的責任金融・国際的責任金融の重要な担い手になることも当然のことです。
第1に、国際組織は、国際社会から託された国際公的業務として、貨幣を取り扱っているからです。
第2に、国際公的業務として託された貨幣は、国際社会の安全と福祉のために使わなければならないからです。
第3に、国際組織は企業組織と同様に、組織の管理・運営のために、地域から大気・土地・空間・環境などの自然資本や上下水道・電気・通信・道路・ゴミ焼却などの設備を提供してもらい、それらの使用料金を払うとともに、地域の雇用などで貨幣を支払い、地域と利益を共有するからです。

国際組織の社会的責任活動についても、国際的業務において配慮すべき活動と、組織の管理・運営のさいに配慮する活動の二つがあります。

社会的責任の国際標準規格「ISO26000」の七つの行動原則は、国際組織にも厳しく適用されなければならないでしょう。

(I)その他組織
上記にあげた組織以外に、組織としてなんらかの社会的役割を果たす組織をすべてふくみます。


(以上)

(お詫び)

紀国は、『社会的責任金融・国際的責任金融』という著書を出版しようと考え、その準備をしていました。このページはその成果の一部です。
ところが2017年1月から、研究の対象を『国家破産・金融破産』の出版に切り替え、研究時間をすべてそちらに振り向けることにしました。金融という公共財の枝葉の改良をいくら提起しても、その土台である根っこが腐ってしまっては、公共財という樹木は倒壊するからです。
したがってこのページには最新のデータや事件などは、主だったものしか反映されておりません。まだ未完成なのですが、「社会的責任金融・国際的責任金融」のページをいつまでも空白にしておけませんので、これまでにまとまったところを、アップさせて頂くことにしました。
みなさんのご意見を反映させていただだき、より良いものに改良していきたいと存じます。

(2018年1月26日執筆)