論説「ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論」が高知大学学術情報ディポジトリに掲載されました。2019年3月

このたび、論説「ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論」を、高知大学経済学会『高知論叢』第116号(2019年3月)に発表しました。

紀国が研究をすすめてきました「国家破産・金融破産」研究の第2作となるものです。

ご関心のある方は、次をクリックして高知大学学術情報ディポジトリにアクセスしていただき、拙稿論文をダウンロードしていただくことができます。

ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論

論文の構成は次のとおりです。
「ジェイムズ・ステュアートの国家破産・金融破産論」

はじめに
第1章 ステュアート経済学の優位性
第1節 ステュアート経済学の優れた功績と悲運
第2節  ステュアート経済学の基礎をなす「貨幣流通の原理」と「調整均衡  の原理」
第3節 ステュアートによる先見的な貨幣数量説批判
第2章 ステュアート公信用論の優位性
第1節 ステュアート公信用論についての通説の誤った理解
第2節 通説が誤ってしまった謎の解明
第3節 ステュアートの考える信用と「信頼の原理」
第4節 ステュアートの考える公信用
第3章 ステュアートによる公信用研究の方法
第1節 ステュアートの公信用研究の方法と五つの想定
第2節 公信用の実証研究からステュアートが得た教訓
第3節 公信用の理論研究
第4節 公債に寛容なステュアート
おわりに

ジェイムズ・ステュアートを取りあげた意義について、本論文の「はじめに」では、次のように語っております。

「本論文では、アダム・スミスの『国富論』より9年早く、歴史上最初に、経済学を科学として体系的に確立したと評されるサー・ジェイムズ・ステュアート(Sir James Steuart、1713年―80年)の、国家破産・金融破産論を考察する(以下、ステュアートと略記する)。
ステュアートの国家破産・金融破産論を考察する意義として、次の三つをあげることができる。
第1に、科学として体系的に確立した経済学のなかに、国家破産・金融破産というテーマを重要な研究課題として位置づけたのが、ステュアートだったからである。
17世紀から18世紀のヨーロッパは、宗教紛争と覇権争いそして植民地争奪のための戦争に明け暮れた時代であった。戦争は、ヨーロッパの列強各国の財政を膨張させ、深刻な財政危機を引きおこした。財政赤字は莫大な公債の累積をもたらし、文明と国家の危機と表現される事態を発生させた。この状況にあって、当時の知識人、ディヴィッド・ヒューム、モンテスキュー、ジェイムズ・ステュアート、アダム・スミスなどは、それぞれの視点から、国家破産・金融破産というテーマと向き合わざるを得なかった。そのなかにあって、このテーマを経済学の信用論の展開のなかに位置づけて考察したのが、ステュアートだったのである。
第2に、ステュアートの国家破産・金融破産論の理解において、通説に重大な誤解があるからである。その通説とは、「自国民に対する公債なら、それがどれほど累積しようと、政府が破産することはない」とステュアートが考えていた、という説である。
この説は、経済学史から国家破産論そして財政学分野にまで広く行き渡っており、通説としての大きな影響力をもつまでになっている。しかし信じられないことだが、この説はステュアートの読み間違いであり、曲解といっていいほどの誤読なのである。
この誤解を解き、ステュアートの名誉回復を図らねばならない。そうでないと、ステュアートが学問的良心から真剣に考えた研究成果が見捨てられ、公信用論や国家破産論の研究の損失になってしまうのである。
そしてこの通説は、ステュアート経済学を重商主義・原始蓄積期の理論だとみなす通説とも無関係ではないので、それも批判的に検討しなければならない。
第3に、ステュアートの国家破産・金融破産論が、現代的意義をもっているからである。
現代そしてこれからの時代は、国家破産・金融破産そしてそれらと連動した経済破産のリスクがいっそう高まる状況にある。その原因は、経済自由主義の引き起こした三つの巨大な負の遺産、金融バブルの崩壊、経済格差と貧困の拡大、地球温暖化危機である。
ディヴィッド・ヒュームは文明を破壊するから、アダム・スミスは不生産的との理由から、公債全面反対論を唱えた。それは健全な思想であり順守されるべきものであるが、現代は、それだけでは対処できない事態を迎えている(以下、ヒューム、スミスと略記する)。
それに比べると、ステュアートの公信用論・国家破産論は、より現実的で実際的な接近方法を示しており、その研究成果から学ぶべきことは多いのである。
以下、次の順序で考察する。
第1章「ステュアート経済学の優位性」では、ステュアート経済学を重商主義・原始蓄積期の理論だとする通説を批判的に検討し、ステュアート経済学についてのわたしの理解を明らかにしたい。
第2章「ステュアート公信用論の優位性」と第3章「ステュアートによる公信用研究の方法」では、ステュアート公信用論についての通説の誤りを明らかにしたうえで、彼の公信用論の優れた内容と意義を明らかにするつもりである。」

以上です。
ご笑覧いただければ幸いです。

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