このたび、紀国が研究をすすめてきました「国家破産論」研究の第7作「アベノミクス国家破産(1)―貨幣破産・財政破産―」(高知大学経済学会『高知論叢』第122号、2022年3月)が、高知大学学術情報ディポジトリに掲載されましたので、ご案内申し上げます。
ご関心のある方は、次をクリックして高知大学学術情報ディポジトリにアクセスしていただき、拙稿論文をダウンロードしていただくことができます。
ご意見のある方は、投稿ページ(意見交流)にてご意見を賜れば幸いです。
本論文の構成は次のとおりです。
はじめに
第1章 アベノミクス国家破産(金融・財政)の全体像
アベノミクス国家破産(金融・財政)の現状
アベノミクス国家破産(金融・財政)の基本構図
アベノミクス国家破産(金融・財政)の進展状況と時期区分
アベノミクス国家破産の解明方法:統合研究の必要性
第2章 財政と金融の相互関係と戦後日本の分離規制
歴史における財政と金融の相互関係
戦後日本の財政法と新日本銀行法による財政と金融の分離規制
(財政法と財政制度改革)
(新日本銀行法と中央銀行制度改革)
第3章 財政と金融の癒着合体における隠ぺい型の形成
財政法と財政制度における不備・不具合
新日本銀行法と中央銀行制度における不備・不具合
世界の中央銀行制度の評価方法にみる不備・不具合
貨幣数量説を利用した財政と金融の癒着合体(隠ぺい型)の成功
おわりに
「はじめに」において、次のように本論文の意義と意図を示しています。
「アベノミクス」という言葉は、政治家である安倍晋三氏の単なるキャッチフレーズ(宣伝文句)に過ぎない。しかも接尾語の「ミクス‘mix’」とは「調合した」という意味だから、「安倍が作りだした」ぐらいの意味でしかない。もしこれが主義や説を表すなら、「イズム‘ism’」にならなければならない。「アベノミクス」とは、このような軽い乗りの造語にしか過ぎなかったのである。
ところが、「アベノミクス」を掲げた第2次安倍政権は、実に7年8ヵ月も継続することになった。もっとも安倍三氏は、2020年8月28日、体調不良を名目の理由にして突然の辞意表明となった。「桜を見る会」の不祥事(スキャンダル)での検察の捜査を恐れてでの事だというのが大方の見方である。彼の尊敬する祖父で首相を務めた岸信介氏は、いつも刑務所の塀の上を歩いているが、落ちるときはいつも塀の外に落ちたと評されていたが、やはりその血を受けついでいるのだろうか。
だが「アベノミクス」は、それを継承するとして発足した菅政権もふくめると、9年間近くも継続したことになる。2021年発足の岸田政権のもとでも、安部晋三氏は自民党最大派閥を結成し影響力を拡大しているので、隠れ「アベノミクス」として、現在も継続中なのである。
この現象は、日本における財政史、金融史、財政金融史そして政治・経済史上、異常で異様な出来事なのである。戦時でもないこの平時において、財政金融において戦時下のようなひどい状況が出現したのである。言論統制され、軍国主義の戦時下ならそれもありようが、言論が自由な今でも、この状況がいとも簡単に出現し、9年間も継続したのである。
この不思議な現象の謎を解くこと、つまり「アベノミクス」を検証することは、財政学、金融論そして財政金融論さらに経済学だけでなく、政治学から法学そしてマスメディア論や社会心理学なども必要とする。
アベノミクス国家破産とは、「アベノミクス」というキャッチフレーズによって、国家破産つまり国家的規模での破産が引き起こされる現象のことを表したものである。これは、次の三つの分野で発生する。①金融・財政分野における国家破産である貨幣破産・財政破産、②エネルギー分野における国家破産であるエネルギー破産、③気候変動分野における国家破産である気候変動対応破産である。②と③は、安倍政権が8年間も無為無策で放置したため、早く手を打つべき重要な時期を逃してしまったことによって生じる。
金融・財政、エネルギー、地球環境というのは、いずれもきわめて高度な公共財である。これが崩壊するのであるから、これから発生するであろうと予測される被害や損害は広範囲にわたり、甚大なものになる。日本は今後、たいへんな苦境に見舞われることになり、安倍三という政治家が、取り返しのつかない大罪を犯したということが、ますます明らかになるであろう。
本論文は、このようなアベノミクス国家破産のうち、金融・財政の側面について、次のような課題を設定し、これらを解明してみようとするものである。
アベノミクス国家破産(金融・財政)はどのような国家破産になると想定できるか、どのような段階をふんでどのように進展するものなのか、そしてそれはいつどのようにして発生するものなのか、なぜこのような深刻な事態を招いてしまったのか。
これらを解明することで、実際の国家破産の発生を少しでも抑止、防止できるための政策課題と研究課題を得られれば幸いであると考えている。
第1章においては、アベノミクス国家破産(金融・財政)の全体像を確認し、現段階がどこにあるのかをみてみたい。またアベノミクス国家破産の解明方法にも言及する。第2章では、財政と金融の相互関係と戦後日本における分離規制の状況をあきらかにする。第3章では、このアベノミクス国家破産を引き起こすことになった財政と金融の癒着合体について検討を深め、この隠ぺい型を形成した制度要因について解明を深める。
なお本論文も、筆者がこれまですすめてきた国家破産論研究の続編である。
以上です。
ご笑覧いただければ幸いです。